・ ページ10
「え、山田くんのお弁当きれい……」
ぱかっと開いたお弁当箱。
口が半開きのまま絶望したように呟くいのおちゃんの声が技術室に響いた。
ウィッグも眼鏡もとってもらうと、口が半開きなのもけっこう可愛い。
「そう？ これぐらい簡単じゃん。」
「は、まさか山田くんが作ってんの？」
「ん？ そうだよ。」
まじかよ高校生に負けた、と下を向くいのおちゃんに、お弁当箱を差し出してあげた。
ほんとは白米派なのに弁当忘れて売店のパンだって嘆いてたから。
「ほら、食べる？」
「っえ、いいの！？ やまだくんまじ天使！」
わーい、と喜びながらお弁当に飛びついたいのおちゃん。変わりに、売店の焼きそばパンをもらう。
「でも、交換条件ね？」
「ふぇ、なになに？」
りすみたいにもぐもぐとたくさん口に詰め込んで食べる仕草、女の子なら絶対しないだろうけど、女の子以上に綺麗ないのおちゃんがするとなんか可愛い。
「なんか『山田くん』って、他人行儀じゃん。俺もいのおちゃんって呼んでるんだし。」
「ほぉ、なるほど……？」
「だから、いのおちゃんもあだ名で呼んで！」
うんうんなるほど、って頷くいのおちゃん。驚くほど素直で。
これ多分、胃袋がっしり掴んじゃったやつでしょ。
「あだ名かぁ……子豚とか？」
前言撤回、素直じゃなくて相当ひねくれてる。
「ふざけないで怒るよまじで。そんでもって弁当取り上げるよ？」
「わ、ごめんごめん！ 山ちゃんとかでいい？」
きゅ、と可愛らしくお弁当を胸に抱いて首をかしげる仕草はとても可愛く。
不本意なあだ名に対する怒りも消えて、それでいいよと俺は頷いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1226人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鎖空
| 作成日時：2017年7月27日 21時
