7.Last いのお ページ42
side K.I
「おぉ、綺麗な月……」
窓を見上げて、お行儀悪く机に腰かけながらお弁当を食べていた。
昼休みのあと、あまり時間がなくて傷んじゃったかもしれないと思ったけれど、そんなことなかった。
夏目漱石だっけ?
『I love you』を『月が綺麗ですね』って訳したのは。
「……なんか、おれみたいだ。」
きっと、その言葉に意味を__付き合ってほしいとか、結婚してほしいだとか__持たせたくてとか伝えるんじゃないんだ。
ただその言葉を伝えたくて、愛してるって伝えるんだ。
それは過程じゃなくて結果で、伝えることに意味があって、つまりは自己完結なんだけど。
月が綺麗ですね、って。
月のように、ささやかに。
輝いている思い出を胸に抱いて生きていけるように、きっと本当に言うべき言葉は、
『貴方を愛しています。ただ伝えたいだけなんです。
月が綺麗ですね。
貴方がくれたあの月のように綺麗な思い出だけで、私は生きていけます。だから本当に、ただ伝えたかっただけなんです。』
って。
夏目漱石の意図はわからないけれど、おれならきっとこんな風に解釈しちゃうんだろう。
でも、そんな言葉、おれには必要ないみたい。
さっき学校の見回りのときに、学校へ続く坂道を上ってくる、小さな体が見えたから。
見ているだけで騒々しいくらいに必死で、頑張って走っていたから。
そろそろ、かな。
「っいのおちゃん!」
いつだって君は、
ただの思い出だけで終わらせてくれないんだよ。
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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年7月27日 21時