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「あぁもうべたべたする〜、知念シャワー貸してよ〜!」
俺の家は案外カフェから遠くて、近い知念の家にお邪魔させてもらいたいんだけど。
駄々をこね続ける俺を無視することにしたらしい知念が、立ち止まって口を開いた。
「涼介のいうこともわかるよ。」
「え?」
「ほら、一人に選べないってやつ。」
「あ、あぁ。」
知念は頭が良すぎて話が飛ぶから、ばかな俺にはなかなかついていけない。
「でも、選べなくて最高の一人を逃しちゃうのはもったいないなって、僕は思うよ。」
「……なるほど。」
頷いた俺を見て満足したらしい知念は、少し歩いてから、また立ち止まった。
「……あれ、もさおじゃない?」
「えぁ、ほんとだ。」
夕暮れの青春な感じがする住宅街を、あんなに負のオーラを放って歩ける人はいのおちゃん(もさおver.)しかいない。
「せんせー、ちょっといーですかー!」
「え、知念?」
ぱたぱたと駆けていく知念を追いかけると、気まずそうないのおちゃんと目があった。
そりゃそうか、今日は避けてばっかだし。
「せんせーの家、この近くなんですか?」
「……ん、まぁ。」
「じゃあ、涼介にシャワー貸してあげてくれませんか? それとも用事とか、あります?」
「き、今日はひか……友達が、くるから、」
光くんの文字を聞いて、胸の奥の方がもやっとする。そう言えば週3でご飯作ってるって言ったっけ?
自分でもいやなことを思い出して、思わず知念の手をとった。
「行こ、迷惑だから。先生、すみませんでした。」
「えー、いいの涼介?」
「いいって……今日、知念の家泊まっていい?」
知念が返事をする前に、後ろから手が引かれた。くいって、弱い力だけど、確実に。
「しゃ、シャワー、貸すから、」
「は、?」
「……ひか…ともだちも、ことわる、から、………くる?、」
俺が返事をする前に、ぐっと知念が俺の背中を押した。いってらっしゃーい、と呑気な声が聞こえる。
「……最高の一人だといいね。」
そっと耳に囁かれた言葉。
知念にはやっぱりなんでもお見通しだな、なんて、今に始まったことじゃないんだけど。
「……い、行こ…?」
ふるふると震えた声を出すいのおちゃんに頷いて、その背中についていった。
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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年7月27日 21時