短編集 JUMP (ページ5)

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In side

はー、緊張する。
今から緊張なんてしてたらやってられないけど。
今日は大人の女性としてみてもらうんだ。
問題集をぎゅっと胸の前で抱きしめ、息を吸い込む。
よし、と目の前の数学準備室の扉をノックして部屋へ入る。

「質問教えて貰いに来ました〜」
「どーぞ」

「ここなんですけど…」
と先生の隣へ座り、膝と膝が触れる程に近づき、身を乗り出す。今日は甘めの香水もつけて来た。

ちら、と先生の表情を窺うがいつもと何ら変わらない様子。
く、手強いな。
もう少し近づき、腿と身体の側面が触れているほどのゼロ距離となる。華奢な割にはあると自負している胸も押し当ててみる。

だけど、普段と何も変わらない先生の様子に焦る。
え、効いてない…？
先生の顔じっと見つめちゃってたみたいで先生がこっち見る。

「ちょっと伊野尾さん、先生の話聞いてる？
さっきから挙動怪しいけどさ……欲求不満？」

からかうように笑われて、恥ずかしさからかぁっと熱くなる。
思っていた返しと違い、たじろいでしまう。
だけどここでひるんではいられない。

「そ、そうです！だって先生が全然相手してくれないんだもん」

勢いで思わず口から零れた言葉。
一瞬驚いたような表情をした先生だが、すぐに冷めた表情へと変わる。

「へー。伊野尾さんでもそういうこと言うんだ。なに、誰でもいいわけ？それとも大人に興味ある？」

ふっと冷たく笑いながら立ち上がり、食器棚からカップを2つと冷蔵庫からジュースを持ってくる。

「誰でもいいわけないです！」
思わず叫ぶように言ってしまう。

コトン、と机に飲み物を置きつつこちらを見て、

「あっそ。言うだけなら簡単だしね」
気だるげに言う先生。
普段とは違う雰囲気に、少し怖くなる。

「〜〜っ、髙木先生、好きです…！」

「信じられないな」
未だ表情の変わらない先生を前にして、愕然とする。どうしたらいいんだ。
告白してここまでリアクションがないとは思ってもみなかったから頭は真っ白。
泣きそうになりながら、半ばやけくそで言う。

「ほ、本気です！！嘘じゃないです！」

「じゃあ証明してみせてよ。」

「ほぇ？」

おいで。と手招きされ、おずおずと先生に近づく。
すっと腕を引かれ、向かい合う形で先生の膝の上に座らされ腕の中に収まる。

「嫌なら突き飛ばして」
ここで頷かなければまだ引き返せる。脳内でそう警告が鳴り響くのに。

「はい」
自分で引き金を引いた。