第59話 ページ10
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次に風呂場の扉が開かれたのは、それから数十分後のことだ。
灰色頭にタオルを乗せて現れた寝巻き姿のAは、気怠げに廊下へ踏み出したあと、すぐ真横に座り込んでいたベポ、ペンギン、シャチの姿に小さく目を見開いた。
「お、上がったな」
「大丈夫だったか？」
「……ちから、ぬけてた…」
「やっぱり半身浴にしてて正解だったね〜」
並んでこちらを見やる彼等を不思議に思いつつ、倦怠感に包まれながらふわふわと答える。
振り返ってみれば、その感覚は以前から付き纏うものだった。
今日に至るまでの風呂上がりの強い虚脱は、ただのそれではなかったのだ。
Aにとってまともな入浴はカナヅチになったあとが初めてだった。
悪くない習慣だと思っていた分、通常の感覚を知らぬまま二度と体験できないことを思えば、ほんの少しの物悲しさが芽生えるというもの。
随分変な体だなと心中ぼやいていると、今度はリビングからローが顔を覗かせた。
「おい、早くこっち来い。髪乾かすぞ」
そう言う彼の手には準備万端とでも言わんばかりにドライヤーが握られている。
呼ばれて歩み寄るAの後方、にやけ顔で何か言いたげな3人を目に捉えたローは、彼等をひと睨みで風呂場へ退散させた。
「…みんな、あそこでなにしてたの？」
「お前が心配で待ってたんだとよ。あとで礼言っておけ」
「……あなたも？」
ぴた、と不自然にローの動きが固まった。
何の気なしの問いは彼の行動の核心を突くものであったらしい。
その沈黙を肯定と受け取ったAは、黄金色の虹彩を宿した目を真っ直ぐに捉えた。
「…ありがとう」
「……………………別に」
長い間を置いて、まるで蚊の鳴くような声がAの耳に届いた。
ローは曇りない薄紫の瞳から逃げるように視線を逸らし、リビングの床に敷かれた絨毯に膝を着く。
そんな彼に背を向けるようにしてAも大人しく腰を下ろすと、間もなく機械音と共に温風が吹き付けた。
人工的な風に攫われて、水分を含んだ灰色の絹髪が重々しく靡く。
それは光の加減で時折銀色のようにも見え、名状しがたい神秘的な色合いを放っていた。
「(妙な目の色、妙な髪の色…)」
無心でその様子を目で追いながら、ローは改めて目の前の少女の全容を頭に浮かべた。
全体的に色素の薄い印象を受ける彼女の見目は、
だが、それはあくまで天性のものに限る。
透明感のある色白な肌も相俟って、色が抜け落ちたような儚げな姿は───美しさよりも先に、鉛中毒の罹患者を彷彿とさせた。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
