第58話 ページ9
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ヴォルフが悪魔の実について調査していたのはもう何十年も前のことだ。
記憶が曖昧になっている部分があっても致し方なく、例に漏れずホシホシの実の詳しい情報も靄がかかったように思い出すことができない。
何せ悪魔の実というだけで何百種類と存在しているのだ。
名前や見た目を覚えているのならまだしも、特に印象に残るものでもない限り、1つ1つの能力の詳細はどうしたって時と共に抜け落ちてしまう。
それこそ中でも究極と謳われた、あの真っ赤なハートのような強い存在感があるものでもなければ────
「とにかくだ。海だけじゃない、特に水が溜まっておる場所には充分気を付けるんじゃぞ」
「…わかった」
ヴォルフは記憶の棚をひっくり返すことを諦め、話を切り替えた。
今向き合うべきは後戻りできない現状にある。
いわゆる"能力者"と呼ばれる彼女等の天敵は、日常にすら存在するものだ。
彼女が溺れ死ぬ前に偶然判明したことを喜ぶべきか、それとも埒外の力を身に付けてしまったことを気の毒に思うべきか。
どちらにせよ注視することに変わりはないが、能力者の存在はヴォルフの心に漣を立てる一件であったのは確かだった。
***
暗闇の中に見慣れた小屋を目視した途端、ホッとした溜息が出たのは本当に無意識だった。
そんな自身の言動に今日だけでも何度目かの釈然としないものを感じて、Aは再度頭を悩ませる。
全員揃った夕食の間も、歯を磨いている間も、延々とその不明瞭な思考に付き纏われ、まさに心ここに在らずな状態だ。
どうやら彼女は一度考え始めると周りが見えなくなる質であるらしい。
「A、いいか？何かあったらすぐ呼べよ。まずベポが乗り込むから」
「おれ耳がいいから、小さい音でもすぐ気付けるよ！任せてね！」
「……うん」
問題の入浴前にペンギンやベポ、シャチが再三に渡りそう言いつけるも、発せられるのは空返事ばかり。
ふらふらと風呂場に消えていく後ろ姿を見送り、3人は作戦を開始した。
今更過保護と言われようが構わない。
それは風呂場の扉の真横を陣取り、ただひたすらに待機するという対策方法だ。
並んで体育座りをする姿が何だか珍妙で、ローが呆れたように口を開いた。
「…お前ら、そこまでするか」
「するよ！Aが溺れ死にするよりずっといいでしょーが！」
一切の迷いがないシャチの即答に、他の2人も深く頷く。
悪魔の実と聞いて畏怖するでもなく、ただ純粋に本人の心配をする彼等を、能天気だからという理由でまとめてしまうには愚昧すぎるか。
ローはしばらく面食らった後、「……そうだな」と小さく呟いた。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
