第56話【悪魔の実の能力者】 ページ7
.
────何だか落ち着かない。
再度訪れた内側から擽られるような感覚にAは身じろぐ。
怪我なんて今更だ。
何度も刺されて、何度も撃たれて、何度も切り裂かれてきた。
この肉体に残る多くの傷痕がそれを証明している。
生きてさえいればいいと、無頓着にすらなっていた肉体の破損を咎められるのは、考えもしないことだった。
「でもありがとう、A。ヴォルフを助けてくれて。おれ達じゃ間に合わなかった」
眉を下げて、ベポはまたにこりと笑った。
当然と言ったか。
向けられていた感情の正体は、彼等にとっては普通の、ごくありふれたものであるらしい。
他人に───否、ここはもっと近い間柄である"友達"と呼称すべきか。
友達に起きたことを我がことのように笑ったり、怒ったり、まるで感覚を共有しているかのような反応を見せる彼等を前にして、Aも既存の認識を改めざるを得なかった。
言葉の通りだ。
体であれ心であれ自分の存在が損なわれた時、共感力が強い生き物である彼等は、鈍い自分以上に痛みを感じ取る。
どんな理屈だか知らないが、自己完結できていたことが、本来無関係であるはずの存在にも伝播してしまう。
ならば、その言葉は蔑ろにしていいものではないだろう。
何故ならAは、彼等がそんな思いをするのは違うだろう、という自身の否定の心に気が付いていたからだ。
「────」
────本当に。
つくづく、彼等とは似ても似つかない生き物なのだと思い知らされる。
「…気をつける」
「……それでいい」
耳まで赤くさせたローはぶっきらぼうな調子で、バツが悪そうに顔を背けた。するとその傍ら、弾かれたように勢いよく手が挙がった。
「〜ッそれはそうと！さっきからずっと聞きたかったんだけど！」
先からうずうずとしていたシャチがもう我慢ならないと話を切り出す。
「結局あの光が何かって誰も分かんねェわけ？」
その疑問は取り調べでの唯一の謎だった。
会話の中で嘘はついていない。だが突飛な証言にラッドも怪訝な顔をしていたのも事実であった。
突如として飛来した青い光によってピストルも屋敷の壁も破壊された───なんて荒唐無稽な話を誰が信じるのか、という話だ。
ヴォルフの人望という後ろ盾がなければ、今もまだ駐在所に拘束されていただろう。
そして
「────"悪魔の実"」
密かに息を呑んだのはローだった。
その僅かな動作は誰にも悟られることはなく、ペンギンが興味ありげに後部座席から身を乗り出した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 254人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ONEPIECE」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
