第54話 ページ5
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事情聴取はほとんど恙無く終えることができたと言っていい。
やり取りを盗み見していたというメイドの女、事件の当事者であるヴォルフらの証言に加え、もう一押ししたのは数十年の間に培われていた彼の人望で、最終的に正当防衛と私人逮捕という形で収められた。
ようやく駐在所を出た時にはもう夜も更け始める頃合いで、ぽつりぽつりと町中に明かりが灯り始めていた。
「────君達」
重苦しい声に振り返る。
ラッドが呼び止めたのは件の被害者であるペンギンとシャチだ。
背後から駐在所の明かりに照らされ、逆光気味になった顔持ちは暗がりの中では不鮮明で、彼の纏う悄然とした雰囲気をより色濃いものにさせる。
それでも制帽の下から覗く2人を見やる目に迷いはなく、やがてその視線は頭ごと地面に向けられた。
「…今まで助けてやれなくて、すまなかった」
深々と頭を下げたラッドの姿と、吐き出された謝罪への適切な受け答えは咄嗟に思い浮かばなかった。
柔く降りしきる雪の中、冷たい沈黙が流れる。
日が暮れて落ち着き始めた町の喧騒も今は遠く、一時の感情に流されず、冷静に思考を整理するには充分な環境だった。
ペンギンもシャチも、彼に対して何とも思っていないと言えば嘘になる。
面と向かって謝罪を述べたその誠実さに白けたような何かを感じているのも、未だ腹に据えかねるような思いがあるのも、紛れもない自分達の本音だ。
何もかもぶちまけてしまってもいい。
それで気が済むのなら。それで苦痛の残滓が消え失せてくれるのなら。
「────おれ達、今すごく楽しいよ」
そんなこと、考えるまでもない。
感情的になったところで何も解決しないし、きっと何をしたって満足できないのだ。
過去へ遡行し、両親が高波に攫われたあの瞬間からやり直せるような術がない限り。
でもそんなことなどできはしない。
時間は無情に平等に、いつだって勝手に前へ進んでいくものだ。
ならばせめて、その先で巡り会えたものの輝きを示す為に言葉を紡ごう。
例え一欠片だって、自分達の手でその光を穢すような真似なんてしたくないから。
「明日からよろしく頼むぞ、ラッド」
「…ああ、任せてくれ」
ラッドはズレた制帽を両手で整え、顔を上げる。
彼の覚悟は依然変わらず、少年達の思いを尊重することにある。
であるのなら、あとは行動で示さなければならない。
彼等を助けられなかったという覆せない事実は、それでもラッドが駐在として足を止める理由にはなり得ないのだから。
「────」
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
