第71話 ページ22
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間一髪、想定外の力によって銃弾から庇われた彼は、それはそれはAに感謝の意を示した。
言葉だけでなく行動でもその意思を顕にしたヴォルフは、頑固者というだけあってこれがなかなか引き下がらない。
お前に命を救われたのだと熱弁する姿は、いつぞやのペンギンやシャチを想起させるほどだった。
けれど当初の目的であった治療も施され、いつの間にか住む場所を与えられて、勉学や礼節を教わった。
その価値は人との交流の中で証明されていった。でなければ体験を学びと心得て、このように思い悩むこともなかっただろう。
頭を捏ね回すのは正直疲れる。分からないことが多くて、延々と考え事をしているような気がする。
それでも、以前より満ち足りていると思えた。
胸のところがあたたかくなる度に、死とは対極にあるそれを実感していく度に、その感覚はどんどん強くなっていく。
「(わたしはまちがいなく生きている)」
ただ1つ、渇望したものを与えてもらった。
これ以上彼等に何を望めというのか。
望むことなどもうない。その願いが全てであったのだから。
ただでさえまだその対価を返せていないというのに、その上智慧を授けられ、さらに何かを強請るなどあまりにも欲深すぎるだろう。
というか、そもそも。
Aは何かを欲したが故にヴォルフを助けたわけではないのだ。ましてや助けたという結果も意図していたものでもない。
突発的にも程がある。けれど1つだけ分かることはある。
────先にわたしを助けたのはあなたのほう。これでぎぶあんどていく、になるのでしょう？
いつもの口癖を含ませてそう言えば、彼は最後まで納得していないような顔でようやく退いたのだった。
「……あの、」
「ん？」
「…どうして、あなたたちは他人をたすけようとするんですか」
先に裏方へ引っ込んだ臙脂色の背を追いかけるでもなく、脈絡のない問いを投げかけた少女に、ウルは眼鏡の奥で瞬きをした。
彼女が訳ありだというのは一目見た時から分かっていた。
綺麗な顔立ちは表情筋が尽く死滅しているかの如く無表情を保ち、言葉遣いは所々流暢とは言えぬ幼さが残り、年相応の子供像からはあまりにもかけ離れた印象だったからだ。
時折垣間見える初々しい人間らしさは、きっと少女と暮らしているあの信頼できる老人や、ミンク族を含めた子供達の努力の賜物なのだろう。
どうやら少女は、彼等が自分に尽くす理由を知りたがっているようだ。
いや、正しくは理由を欲している。
誰しも得体の知れないものは警戒するだろう。人間の優しさというそれを、指先で突いて確認するように少女は問うのだった。
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続く (更新停止中)
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
