第70話 ページ21
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真っ白の、冷たくて知らない場所。
それはAがスワロー島に流れ着いたあの日の情景。
衰弱した体には少しずつ死の足音が近付いていて、何とか空腹から逃れようと偶然悪魔の実を食べてしまって、治療の為に人を探して。その果てに、今は共に暮らす山小屋の5人と出会った。
引き裂かれるような悲鳴も、腐臭を放つ死体もない不思議な場所。
フランチェスカの屋敷よりもずっとずっとあたたかい、まるで暖炉の火にあてられているような感覚を彷彿とさせる、そんな場所が外の世界にはあった。
それが当たり前に存在しているものではないと、今のAは知っている。
そうでなければ何故、屋敷に連れてこられた人間達は今際の際に希うほどのあたたかな場所から引き離され、薄闇の中で最期を迎えなければならなかったのか。
今にして思えば、あの箱庭を統べていたのは紛うことなき大きな悪意だった。
その気付きが明確な答えとなった決定打は、フランチェスカの当主である男と、シャチの叔父の面影が重なったことにある。
そんなことも知らず、分からず、何においても無知で、戦うこと以外に何もできない。そうあれかしと飼い慣らされていたAに、外の世界で触れたものはいかに己が蒙昧であるかを淡々と突き付ける。
だから───こんな空っぽな自分に手を差し伸べた彼等の思考が、理解できない。
何の期待もない自分に、何故あたたかい場所を与えたのか分からない。
伽藍堂を救って何になる。それでは何の得もないのに助けたと、そういうことになってしまうではないか。
「ほら、時間だ。あとはおれがやるから2人とも休んだ休んだ」
「…そうさせてもらうわね。Aちゃん、行きましょ。タルトタタンにぴったりな紅茶を入れてあげるわ」
Aは甘い匂いを漂わせる白いケースに目を落とす。
中身はつやつやサクサクのタルトタタン。甘い物を好む自分の為に、ウルが買ってきてくれたもの。
これは対価だ。働いた分だけ貰える
ウルがその優しさを一心に向ける存在であるクロエが、彼が不在の間、何事もなく日々を過ごす為の手伝いをやり遂げたことへの謝礼。
この対等を、天秤を超えた先にあるのがウルとクロエの関係。それに追随して、初めに自分を助けた同居人達の顔が浮かんだ。
何の得もないのに。
下手をすれば自身を損なう可能性すらあるというのに、それでも他人の為に行動できる利他的な人間達。
答えを見つけてはまた考え、そうしている内にAが思い起こしたのは、以前交わしたヴォルフとのやり取りだった。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
