第69話 ページ20
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2人だけの世界だった。
特に深く思考せず、Aは率直にそう形容した。
だって今あの瞬間、彼等は互いのことしか頭になくて、互いの想いの全てを相手に向けていて───一目瞭然とはまさにこのことだろう。
その感情の名を知らずとも、明らかに外界とは断絶された雰囲気を纏う2人の状況を言い表すには適切と言える。
互いに向けて発する言葉の節々からも。
頬から滑り落ち、縋るように臙脂色のブランケットを掴んだ華奢な指先を労わるように、包むように重ねられた大きな手も、それを受け入れる様も、あらゆる一挙手一投足が優しさに溢れていた。
「────」
クロエに長旅はできない。彼女は生まれつきの虚弱体質だったからだ。
元々は少し風邪を患いやすい程度だったようだが、昔起きた事件で一気に悪化し、以来薬が手放せない体となってしまった。
そんな彼女をウルは甲斐甲斐しく、まるで吹き荒ぶ風の中に曝された小さな花を守るようにして世話を焼く。それはもう、一方的に包み込むような勢いで。
無論、この島の医者は最善を尽くしている。それでも病ではなく体質である以上、その症状を幾分か和らげてやることしかできない。
それを全て心得て尚、ウルはより良い体質改善の模索と題して、何かに追われるかのように船旅を繰り返した。
「(……なるほど、これは…)」
いやしかし、対等であることを示すその言葉は、彼等の関係性を言い表すには致命的に足りていないものがある。
物理的にかなり距離が近い気がするし、何より───そう、釣り合いが取れていない。これがギブアンドテイクであるのなら、帳尻が合わないように思う。
片や待ち人、片や海を駆け回り、やはりそこには差があるように感じられた。
天秤で表すのなら、明らかに片側の重りのせいで傾いている状態だ。その差は対等と言い切る為に見落とせるほど瑣末なものではない。
先ほどのクロエの縋るような仕草は、その後ろめたさの表れか。その思考の揺らぎすらも包み込まんばかりに、ウルが行動し続けているのは傍から見ても明らかで、故に奇妙だった。
不躾にもAはそこまで考え込んでから、ふと思い至る。
彼等ほど密接ではないにしろ、そういう存在が自分にもいたではないか。
対等である為の利益を何も返せていないのに、絶えずその優しさを向けてくれた人達が。
「(……そういえば、理由をきいたことがない)」
それは、なぜ彼等は自分を助けたのかという初歩的な疑問だった。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
