第68話 ページ19
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特に料理なんてひどいものだ、と付け加えるように言えば、ウルは意外そうな顔をした。
Aの脳裏に浮かぶのは黒焦げに炭化した塊である。
素材はまともであったはずなのに、その得体の知れない暗黒物質を何度生み出したことか。
特段得意でもない掃除や洗濯だが、それらと比べても料理は工程が多い上に細かく複雑で、どうも頭がこんがらがってしまうのだ。
上達する兆しも見えなかった為、結果的に食事を作るのはほとんどペンギンやシャチの役目となったし、キッチンから足が遠のくのも自然なことであった。
だから器用だなんて褒められるのはAとしても疑問が残るところだった。
「そうなのかい？じゃあ適材適所ってやつじゃないかな」
「てき…？」
「家事は苦手かもしれないけど、お花屋さんには向いてるってことだよ。誰にでも向き不向きはあるから、完璧な人間なんていないさ」
落ち込んでいるようにでも見えたのか、気負う必要はないとでも言うようによしよしと灰色頭を撫でられる。
「……なら、できない時はどうすれば、」
「そういう時は、信頼できる誰かに素直に頼ってみるのも1つの手だと思うよ。できるようになるまで頑張るっていうのも大事だとは思うけど……まあ、世の中にはどうにもならないこともあるからね…」
Aに医学の知識はない。家事や発明の才も、ましてや誰かを無条件に気にかけられるような底抜けた善性も。
ただ1つ、戦えるということだけを除いて、突如として放り出された外の世界で生きていけるような力など持ち合わせていなかったのだ。
ないものねだりで羨んでいたのかさえも分からない。
けれど事実として、ここまで生きてこられたのは。
今の今まで、自分の"できない"を肩代わりし続けていたのは────
「あ！おかえりなさい、ウル！」
「ただいま、クロエ。体の調子はどうだい？薬はちゃんと飲んでる？先生の診察とかサボってないよね？」
「もう、大丈夫よ！Aちゃんもたくさんお手伝いしてくれたから！」
見慣れた黒のシルエットを見つけた時、クロエの声音は1オクターブほど跳ね上がったように思えた。
畳み掛けるウルの問いに、彼女は呆れと喜悦が混じった笑顔で言葉を返すと、冷えきった頬にぬくもりを分け与えるようにそっと両手を添えた。
「…ごめん。今回もあまりいい収穫はなかった」
「いいのよ、いつもありがとう。…こっちこそ、」
「謝るなよ。おれは当然のことをしてるだけなんだから」
「…無理してほしくないもの。貴方に何かあった方が辛いわ」
Aは遠巻きに、幾度となく繰り返されたであろうそのやりとりを眺めた。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
