第60話【クオリア】 ページ11
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それは今に始まったことではない。
頭の片隅に芽生えた認識は、あの白銀の森で出会った日を起点とし、その姿を目に映す度に肥大していく。
────こいつは
自身にいくらそう言い聞かせても、ホワイトモンスターと蔑称され、迫害された過去は、少女と病を勝手に結び付けたがった。
考えないようにしていても、ふとした瞬間脳裏にチラつく。
容姿といい、しまいには能力といい、数多の傷にまみれたローの心を掻き乱すには十分なものを彼女は有していた。
終わりの見えない思考の坩堝に囚われて、どれだけの時間が経っただろう。
それほど長さはない髪はすっかり乾ききっており、風を孕みながら軽やかに宙を泳いでいる。
頃合いを見てカチリとドライヤーの電源を切った。
仕上げに乱れた灰色頭を櫛で整えてやる間も、追憶を繰り返すローの意識は水中を漂う藻のように揺らめいている。
「……さっき、どうしてとめたの？」
そして、夢から覚めた時のように覚醒した。
懐古に浸るローの意識を引き上げたのは、唐突で何の脈絡もない、心底理解できないと言いたげな口調で何かを問いかけるAだった。
端正な顔は正面に向けたまま、彼女は数時間前の出来事を脳内に再生する。
「……ころさなきゃころされてた」
ローはそこでようやく思い至った。
Aが言いたいのはシャチの叔父夫婦の一件だろう。
帰宅してからというもの、ずっと考え込んでいる様子だったが、一人頭を悩ませていたのはそのことだったか。
急速に稼働し始めた思考回路は、その勢いでローの口から本音を弾き出した。
「…お前こそ、よく止まったな」
Aは言葉を返すことができなかった。
絶句したからではない。己の本質を見透かしたような言い回しに納得していたからだ。
故に疑問は深まるばかり。
脳と体の乖離現象、その最たるもの。
それはあの命のやり取りの場において、明確な殺意を持っていた敵を殺せなかったこと。
その先にあるのは"死"という行き止まりだ。
言われるまでもなく、改めて考えるまでもなく。
毎日毎日生きるか死ぬかの選択を繰り返してきたAは、命が恐ろしく軽いものであるということを身を持って知っていた。
フランチェスカの屋敷で生存権を得るには、敵の息の根を止めるという方法以外に選択肢など存在しない。
にも関わらず、仕留め損ねた。
それでも運良く死を回避できたのは、突如発現した悪魔の実の能力とヴォルフの咄嗟の介入という、それまでにない異分子があったからだ。
そこまで考えて、ようやく噛み合わない事実があることに気が付いた。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (3月20日 19時) (
レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あーねさん» ありがとうございます！そう言ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです…！更新頑張らせていただきますッ！ (11月9日 0時) (レス) id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あーね(プロフ) - 一気読みしてしまいました…！どこか儚くて美しい表現力に痺れました！マイペースに更新頑張ってください…！ (11月8日 18時) (レス) id: a59d493da5 (このIDを非表示/違反報告)
いの(プロフ) - あさん» 閲覧していただきありがとうございます！頑張らせていただきますー！ (10月20日 6時) (レス) @page9 id: 38b3649016 (このIDを非表示/違反報告)
あ - いつも読ませていただいてます！これからもお願いします！ (10月15日 21時) (レス) @page8 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いの | 作成日時：2023年9月7日 0時
