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雇い直す ページ3

 シュヴァンは立ちあがり、懐から短剣を出すと、それを鞘ごと黒服の男へ投げつけた。

 それは一度地面で小さくバウンドし、男の足元へと転がる。
 その行動に目をむいたのは、それの価値を知っているシュエットだ。

 「…陛下」
 「これであなたを雇い直す。もちろんシュエットもよ」

 珍しくシュエットを無視して、女王はきっぱりと言い放った。

 その目にはすでに、涙も後悔もない。
 今この場で、女王は女王であることを辞めたのだ。

 知らぬ間に城を乗っ取られ、自身の弱さに気づき、そしてそれをたった数分で受け入れる強靭さ。

 この人の精神は、一体どうしたら折れるのだろうか。
 いや、そもそも、折れることなどあるのだろうか。

 「その短剣は貴方達二人を雇ってもお釣りがくる。文句は言わせないわ」

 炎の前に傲然と立ち、爛々と光る眼で男を見据える様は、まるで戦の女神セクメトのようだ。

 何を持ってしても、この女性の生まれ持った威厳を剥ぎ取ることはできない。
 たとえどれだけ貶めようと、その気高さを汚すことはできない。

 この星では、銀色が王の象徴だ。

 それを持って生まれ、そしてそれに恥じぬ王となった彼女は、しかしながら今ここで、何も持たぬ「シュヴァン」になった。

 「なんだったら、貴方の裏にいる組織ごと雇ってやるのもいいわね」
 「陛下…」

 いや、どうやらまだ女王だった頃の癖は捨て切れないらしい。

 シュエットは片手を額に当て溜息をつく。

 これからしばらくは、この上から目線を封印してもらわなければならないのだが…まあ、今の状況も含め、色々と前途多難だろう。

 額から手を離したシュエットがちらりと男の方を見れば、彼は珍しく怪訝そうな顔をしていた。

 まるっきり理解しがたいシュヴァンの行動に目を見張り、若干口が開いている。
 こんな顔は、昔だって見たことがない。

 シュエットは思わず、短く息を吐き出した。

 「っふ」
 「ッ…なァに笑ってんだシトーてめぇ…」

 自分から顔をそむけて肩を震わせるシュエットを、男は狼も驚きの形相で睨みつけた。
 が、すでにペースを崩されている男の機嫌など知ったことではない。

 「ふ、くくッ…!ヴァーチ、お前が焚きつけた御仁はな…まぁ、大変だから、覚悟しておけよ」

 今まで見たことのない笑顔にシュヴァンは驚き、ヴァーチと呼ばれた男は更に眉間にしわを寄せた。
 

涙→←虚飾



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作者名:糸圭卯格 | 作者ホームページ:http://commu.nosv.org/bbs/inkscope  
作成日時:2017年1月6日 12時

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