遠くへ*9 ページ9
「……………さか、た」
「彼女の親から連絡が来た時、頭が真っ白になった。なにも考えられなくなった。だって、即死やったから。僅かな希望すら持つ事も出来なかったっ………」
一気に話す坂田の顔はあまりにも悲痛に満ちていて。
そんなに彼女さんのことを想っていたんだ ということが痛いほど伝わってきた。
数回、深呼吸をして落ち着かせた坂田は海を見つめて 彼女に思いを馳せるようにポツリと呟く。
「この海はな、彼女が大好きな場所やった。何回も一緒に来た。Aちゃんと同じようにバイクで、後ろに乗せて」
…きっと、坂田の瞳には今彼女さんとの この海での思い出が映っているのだろう。
そして、私を乗せてきたバイクにも 彼女さんとの思い出がたくさん詰まっているわけで。
………そんなバイクで思い出の海に私が来ても良かったのかな。てかなんで私を連れてきたんだ?
そんな疑問が私の中で湧き出てくる。
「もう1つ、後悔してることがあってな」
私の心中を見越したかのように、私に語りかけてくる。
「その彼女、高校生くらい…ちょうどAちゃんの歳くらいのときにひどく悩んでたらしくて。俺はその悩みを聞こうとしたんやけど教えてくれへんまま事故に遭ってしもうて……」
坂田は私の方を見る。
「公園でなんやら悩んでたAちゃんを見て、Aちゃんと彼女を重ねてしもうたんよ。
彼女のその頃の悩みも全部聞いてあげたかったって後悔してたから。ならその彼女の代わりにAちゃんの悩みを聞いたら後悔が少しは無くなると思って…」
だからAちゃんをこうして連れ出したのも全部俺の自己満足でしかない そう言って申し訳無さそうに眉を寄せる。
「本当にごめん。こんな俺だけど、悩み打ち明けてくれないかな…?自己満足もあるけど、少しでもAちゃんの役に立ちたい。俺の話も聞いてくれたんやし」
どうかな? と恐る恐る聞いてくる坂田は飼い主に怒られた犬のようで。
自己満足だろうが関係ない。それを言ったら私も自己満足だ。誰かに話を聞いてほしかったから。
微笑んで、坂田を見る。
「私も、悩み聞いてほしいです」
私はでも と付け足した。
「私の話は、ご飯食べてからで良いですか?」
私の言葉に、坂田は あっ と声を上げる。
その様子にふふ と笑ってしまう。
……このときの私は、坂田が1つの嘘をついていたことに気づいていなかった。
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ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2022年5月25日 17時) (レス) @page18 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
菊香(プロフ) - しふぉんさん» わわっありがとうございます!私の心についてとか書いたところもあるのでそう言って頂けて嬉しいです本当にありがとう!私もしふぉんちゃんだいすき。コメントありがとう* (2019年6月30日 19時) (レス) id: 2f8e2c41d8 (このIDを非表示/違反報告)
菊香(プロフ) - 真央☆wrwrd!箱推しさん» わわ、嬉しいです!坂田さん切ないですよね…コメントありがとうございます* (2019年6月30日 19時) (レス) id: 2f8e2c41d8 (このIDを非表示/違反報告)
しふぉん(プロフ) - 号泣しました……切なくて今の私の心とかと少しリンクして、感情移入してしまって涙が止まりません( ; ; )だいすきです素敵なお話をありがとうございました。きっかちゃんだいすき。 (2019年6月30日 9時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
真央☆wrwrd!箱推し(プロフ) - 涙腺崩壊しました……(´;ω;`)さかたん… (2019年3月28日 2時) (レス) id: baec234195 (このIDを非表示/違反報告)
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