2-1 (矛盾) ページ5
いつか、こんな日が来るとは思っていた。
「あのね、」
俺の目の前にいるのは、顔を紅潮させた彼女。
緊張しているようで、目が泳いでいる。
次、何を言われるかはもう分かっている。
「私、好きな人出来たんだ。」
あぁ、やっぱり。
「私と翼って、やっぱり同志だと思っているから、
1番私のことを理解してくれてるんじゃないかって思って。」
そうだ、その通りだ。
俺とアーヤは同志で心の友だから、君の少しの変化にも気づいている。
「だから、1番最初に報告するのは翼かなって思ったの。」
誰よりも1番に俺のことを選んでくれたことに喜びがうまれるはずだった。
「翼が良ければなんだけど、これから相談とかしてもいいかな?」
不安げにこちらを見る彼女。
「もちろん。良いに決まってる。」
そう言って俺は、微笑む。
嗚呼、心が軋む音がする。
心が痛みつけられて、悲鳴を上げている。
それでも俺は、彼女へ微笑み続ける。
「それでね、その相手なんだけど…。翼だけにしか言うつもり無いの。」
彼女からの信用を裏切る理由も無い。
「それは嬉しい。お相手は?」
___やめろ。
鼓動が早くなっている。
拳に力がこもる。
首筋に汗が滴る。
足が微かに震える。
こんなにも体は正直に、拒絶反応をしている。
本当は聞きたくない。
でも、聞くしかない。
俺は彼女の“心の友”で“同志”なのだから。
頬を赤らめて、彼女は内緒話をするように顔を近づけて耳元でこそっと言う。
それは小さな声で、少し震えていて、それでも俺の耳にはしっかりと言葉が入っている。
「……若武、なんだよね。」
はっきりと聞こえた声。
アーヤは恥ずかしそうに下を向く。
「へぇ、そうなんだ。」
どうか、この焦りを、この悔しさを、この悲しみを
悟られぬように。
「いつでも相談に乗るよ。応援してる。」
そう俺が言った声は、果たして彼女の耳にどのように聞こえただろうか。
きっと、心からそう思っているかのように聞こえているはずだ。
いや、そうでなくては困る。
___嗚呼、痛い。
これ以上後悔を作るなと、これ以上偽るなと、
心が叫んでいる。
ごめん、今日だけは我慢して。
彼女には、彼女だけには知られてほしくない本心。
「ありがとう。」
アーヤはそう言って微笑んだ。
その笑みはあまりにも可愛くて、愛おしくて、
思わず目を背けたくなってしまう。
17人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Koko - 忍目線の話って少ないので嬉しいです!(私の推しキャラは忍なのです) (2018年12月8日 22時) (レス) id: ed9673c0fd (このIDを非表示/違反報告)
菊香(プロフ) - チョコ♪さん» チョコ♪さん、ここにもコメント…ありがとうございます!!更新、のんびりと頑張ります(^^) (2017年7月25日 20時) (レス) id: aea442a5e9 (このIDを非表示/違反報告)
チョコ♪ - すごく面白かったです!更新頑張ってくださいね♪ (2017年7月22日 9時) (レス) id: 05bb390022 (このIDを非表示/違反報告)
菊香(プロフ) - 紗奈さん» うみちゃん!久しぶりだね(^^)切なさを表したかったお話だったからそう言われてホッとした…笑 とっても嬉しいです!ありがとう。こちらこそ読んでくれてありがとう! (2017年6月30日 21時) (レス) id: 52fa666800 (このIDを非表示/違反報告)
紗奈(プロフ) - お久しぶり! 元 うみなです^ ^ うんうん、やっぱり菊ちゃんの作品は素晴らしいね! 上杉君たちが大人になって、まだ眠っていた恋心が動き出す感じ。さらに、その恋心を封じて応援する切ない思い!! もうっ!きゅうって胸が苦しくなりました。素敵なお話 ありがとう! (2017年6月30日 13時) (レス) id: f9da42b55a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ