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まぶしくなって目を開けたら、心配そうなひかるがいた。
「ぁ、れ…」
「いのちゃん!!」
がばっと抱きつかれて、全く状況を理解できずにひかるの名前を呼ぶ。
「ひ、ひかる?おれ…」
「よかった、無事で…」
「え?」
目の前で泣き出したひかるが言うには、おれはスタジオに向かう途中で車に轢かれたらしい。
言われてみればここは病院のベッドで、所々に包帯が巻かれていた。
「でもよかった、何の異常もないって。奇跡だってお医者さんが」
「そう、なんだ…」
ひかるはおれを優しく抱きしめてくれた。
久しぶりに感じたひかるの暖かさにほっとすると同時に、喧嘩してたことを思い出した。
「あ、あのさひかる!…その…ごめんね…?」
「え?」
「ケンカ…ずっと引きずったままでごめん。おれが、ひかるに甘えて…わがまましすぎた。ほんとごめん…」
「…いのちゃん、何言ってんの?ケンカなんてしてないじゃん」
「え、?」
目の前のひかるは本当に何も知らないみたいだ。
もしかしてあのケンカごと全部、車に轢かれて眠ってた間の夢だったのかな。
あんなに苦しくて辛かったのに…
「じゃあおれ、悪い夢見てたんだ…」
「ふふ、そうかもね」
優しく撫でてくれるひかるの手に、安心した。
あのまま一生、気まずいままだったらどうしようって思った。
それに、ひどいこと言ったり言われたりした喧嘩が全部夢だってわかって、正直ほっとした。
だってあんなの、仲直りしても何かのタイミングで思い出しては辛くなりそうだし。
悪いこと、全部夢でよかった。
俺の仕事はしばらく休みになった。色々と不便だからってひかるも休みを取ってくれたらしい。
怪我は思ったより早く治って、療養期間として設けられた2ヶ月のうち半分で元の状態に戻っていた。
忙しいのは嬉しいことだけど、忙しすぎたから休みができてちょっと助かった。それに、ひかるがずっと一緒にいてくれるし。
あんなに悩んでたケンカも現実じゃなかったし、こんなに上手くいっていいのかなって思うくらい順調で、幸せで。
おれ、ずっとこのままでいいなぁ。
ひかると、ずっとこのまま。
「いのちゃんとこうして居られるの、幸せだなぁ」
「うん、おれも…」
つらいことがひとつもない、こんな夢みたいなことあっていいのかな。
もしかしてまだ夢の中?なーんてね。
でもそうだなぁ…こんなに幸せな夢ならいいか。
夢なら、覚めなければいいのに。
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作者名:みつあめ | 作成日時:2020年11月29日 0時