▽▲ 寝ても覚めても ▲▽hkin,inhk

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パッと手を繋いだ瞬間、え？とこっちを見られた。
ほとんど扇子を介して、かろうじて触れている手は、当たり前だけどかなり繋ぎにくい。

扇子を挟んでることへの『？』が俺の右側からすごい伝わってくるけど、知らないよ、ひかるが悪いんだからな。



1回目の手繋ぎは無事に終えて、バラバラに分かれた俺たち。


不満そうなひかるは無視。

何度も言うけどひかるが悪い。



歌って、移動して、2回目の手繋ぎのために歩き出す。


正直、今日は俺の勝ちだと思ってた。
このまま2回目も扇子を持ったまま手を繋いで気を紛らわす。
今日は動揺しない、振り回されない。

絶対に成功すると思ってた。


それなのに…



前を歩いてたはずのひかるが、俺がちょっとファンの方を見てる間に隣にいて。

心臓が跳ね上がったのと同時に、俺の右手にあった最終兵器をいとも簡単に奪っていった。


にやりと笑った顔に、ちょっとむかつく。

かえせよ、って一歩踏み出したのに、ひかるは知らん顔で先を歩きだす。



意地でも取り返そうと思った。けど…

手を繋ぎにくくするために扇子を使ったのがひかるにバレてると思うと、急に恥ずかしくなって。


俺にとられないように、自分の衣装に扇子を隠すひかるを後ろから見ながら、もうなるようになればいいって諦めた。



そんなに手、繋ぎたいのかよ。

仕事のときはちゃんと分けろって言ったろ。



ひかるに言ってやりたいことは山ほどある。

けど。


むかつくけど、こういう時はもうダメなんだ。



仕事の時くらいしっかり分けろって思う反面、仕事の時もちゃんと恋人だと思ってくれてる部分を感じると、自分で言った言葉を忘れるくらい舞い上がって、素に戻ってしまうから。



あくまで俺は『いつもの伊野尾慧』で、取られた扇子を気にしないマイペースさを見せつけて、今までで一番強く握られた手にも何でもない顔をして、MC中にちゃっかり返しに来るひかると言葉も交わさないで、ただ「何でもない」を演じて。

そうやって、ファンとメンバーには振舞って。


でも。


アンコールが終わって、シャワーを浴びて、会場を離れて…やっと仕事から離れて2人きりになった時に文句くらいは言ってやろうと思う。



「ほんとおまえ、ばか」



今度はちゃんと、扇子も何も隔てずに、指をからめて。




*Fin

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