検索窓
今日:7 hit、昨日:9 hit、合計:36,038 hit

ページ2

死にたかった。けど、生きたかった。

矛盾とはこういうことを言うのだと思う。

あれから一週間。

最後の日の夜、症状が悪化し始めた。

喉が痛い。咳と共に血を吐く。肺が痛い。

私の周りには誰もいない。

親は、隣の部屋で晩酌をしていた。

楽しそうな笑い声。

私の意識は朦朧とし始めていた。

私の命が終わりを告げる直前、突然隣の部屋から悲痛な断末魔が聞こえてきた。

助けを懇願する声。水が飛び散る様な音。

そして、微かに匂ってくる鉄の匂い。

勢い良く襖が開いた。

奥の部屋は、赤い血が飛び散り、床には胴体が泣き別れになっている親の死体。

不思議と、怖くなかった。悲しくなかった。

その人は私の近くまで来て、膝をついて蹲み込んだ。

障子の向こうの月明かりが顔を照らす。

癖のある黒い髪の驚く程顔の整った男。

目は赤く光っていた。綺麗だ。

この日初めて、一目惚れというものをした。


「あなたは……?」


男は喋らない。

血一つ付いていない手を私の頬に滑らす。

柔らかい、ひんやりとした冷たい手。


「怖がらないのか」


男が真っ直ぐに私を見る。

怖くない。今までの独りぼっちの怖さに比べれば、貴方は魅力的。

そう言いたかったけど、もう体のどこにも力が入らなかった。ゆっくりと体が傾く。

感じたのは冷たい床ではなく、柔らかい腕の中。男が支えてくれている。


「お前は良く耐えた。もうお前を苦しめる者はいない」


『良く耐えた』


この言葉は私の全てを救った。

自然に涙が溢れてくる。

生まれてから初めて認めて貰えた気がした。

生きたい。この人について行きたい。

人間じゃないのは分かっている。

けど私は、初めて認めてくれたこの人と、一緒にいたい。


「わた、しは、生きたい」

「鬼になれ。そうすれば、生きることが出来る」


私は力を振り絞って頷いた。

腕に痛みが走った。切られた傷口に、男が血を垂らす。

私の意識は、そこで途絶えた。




綺麗な満月の夜だった。

弐→←序章



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (58 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
53人がお気に入り
設定タグ:鬼舞辻無惨 , 鬼滅の刃   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

るく - めっちゃ面白かったです!無惨様イケメンでした! (2022年12月22日 12時) (レス) @page31 id: 8a619dd2b7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:いなりずし | 作成日時:2021年2月6日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。