主さま ページ17
「眠れないのですか?」
「えっ、あ!」
主さまの部屋の前でうろうろしていると、静かに障子が開けられた。
「こんな時間に珍しいですね。まさか、具合でも……?」
もうすぐ三十路になるとは思えないほどの美しいたたずまいに、女であるわたしでさえも息を呑む。
雰囲気もあの方そっくりだ。
「いえ…なんだか少し落ち着かなくて」
「そう。寒かったでしょう?早くお入りになって」
誘われるがままわたしは中へ入っていった。
主さまの部屋は香のいい香りでいっぱいだった。
「つわりが酷かったらいつでも言って頂戴。調香してあげるわ。これ、すごく良く効くのよね」
そう言って主さまは乾燥した野草の入った小瓶を見せてくれた。
「あの、主さま」
わたしが呼ぶと、主さまは優しく微笑んだ。
「主さまはどうしてわたしを本丸に引きとめてくださったのですか?」
三日月さんのことを単刀直入に聞くのは良くないと思い、遠まわしの質問を投げかける。
主さまはひと呼吸おくと口を開いた。
「ちょうど貴方ぐらいの歳だったわね。…わたしの子どもは亡くなってしまったのです」
「!」
まさか遠まわしで言ったはずの質問をこんなふうに返されるなんて。
突然の展開に、聞かなければよかったと後悔した。
そんなわたしに主さまは大丈夫よと笑う。
「でも、せめて顔だけでも見たかったわね。…わたしの番だった人とも、その時の状況を考えて縁を切ることにしたの。辛かったわ、あの時は」
主さまはおもむろに話した。
「だから小狐丸が貴方を連れ帰ってきた時は泣くほど嬉しかった。まるで自分の子どもが戻ってきたかのように」
「あ、主さま……」
「貴方はわたしにとって我が子そのもの。だから、わたしのようにあんな辛い想いはさせたくないの」
ああ。
もうこれ以上は言わないで。
「っ………三日月さ…ッ」
不覚にも涙がこぼれ落ちた。
『三日月』。
主さまは切なげに呟くと目を細めた。
そして、わたしの頬に手を滑らせる。
「困ったことがあればいつでもわたし達を頼りなさい」
「…はい」
「貴方はわたしの大切な肩身なのです」
「…存じ上げておりますっ」
「これからも前進なさい。自分を、愛する存在を守るために……」
涙で潤んだ主さまの瞳はまるで夜空に浮かぶ星のようだった。
「はい、母上様…!!」
わたしは思わずはにかんだ。
星と三日月。
二つが再び同じ空に並ぶ日が来ることを、わたしはいつまでも願っています。
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抹茶いなり(プロフ) - 御冷ミァハさん» ありがとうございますm(_ _)m学園祭シーズンで忙しくなかなか更新できませんが、がんばります!(*´˘`*) (2016年9月28日 20時) (レス) id: 169debfbe3 (このIDを非表示/違反報告)
御冷ミァハ - 更新楽しみにしています(*´ω`*) (2016年9月28日 1時) (レス) id: a414c3ef52 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶いなり(プロフ) - 梅雨さん» あああ(゚д゚lll)本当ですね!!教えてくださりありがとうございます!更新がんばります(*´˘`*)♪ (2016年9月8日 0時) (レス) id: 2d00be186d (このIDを非表示/違反報告)
梅雨 - すごい面白いです!!でも『子狐丸』ではなくて『小狐丸』ではないでしょうか?でしゃばってすみません!!でもとっても面白いので更新頑張ってください!! (2016年9月8日 0時) (レス) id: 6b74b1d272 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀬織あやの | 作成日時:2016年9月6日 0時