影山(弟)は実はチート。No.2

知者は楽しむ ページ7

山形side

“知者は楽しむ” 。
試合前に影山が言ったその言葉が何度も脳内で主張してくる。
これは孔子の言葉か？

知者……影山の言葉並びからすると、自分のことか、理想のことか。
孔子の言葉には “優秀な者は” ってのが多かった気がする。
これもそういうことか？
だとしたら『優秀なものは楽しむ』。
……どういう意味だ？
まあいいや、白布にでも聞こう。

今気にするべきは、影山だ。
一方的に成長されるんじゃ困る。
圧倒的な技術の差。
何が違う？どうしたら追いつける？
見ろ、観ろ、視ろ。

今日はちゃんとコミュニケーションが取れている。
白布のツーは、影山も驚いてたな。
若利のサーブが飛んでいって、Bパスが上がる。
攻撃は誰だ、前衛三枚。尾白アラン、角名倫太郎、宮治。
宮侑がボールに触れ……。
その瞬間、影山は真ん中の守備位置から二歩右へ動いた。
……早くねぇか？セッターがボールを触ったのとほぼ同時だぞ？

ドドッ＿＿！

角名倫太郎にボールが渡り、天童さんがドシャット。
天童さんがドシャットをした瞬間、影山は一歩後ろに下がった。

……なんで。
スパイクやセットアップと同時にそんなことができるか？
コースもわからねぇし、その反応速度にはいくらなんでも無理がある。
いや、今のは “そう見えた” だけかもしれない。
もっと、よく視ろ。もっと。

ズダンッ＿＿！

もう一度若利のサーブ。
絶対に “強い” の部類に入るにも関わらず、サーブで決めさせない稲荷崎。
でも、点差は既に二桁。
落ち着いてプレーできる俺らに対し＿＿。

スッ＿＿。

「ツー！？」
クソ、読めなかった。
全然、向こうも落ち着いている。油断した。
ボールの落下点には今誰も居ない。

トッ＿＿。

「ナイスレシーブ！」
どこからか出てきた影山が余裕を持ってレシーブする。
クソ、見てなかった。
今のだけは、絶対に見逃してはいけなかった。
クソ、クソ、クソ。

あそこにいるのが俺だったら “失点してるシーン” が既に五つほどあった。
悔しい。無力さを痛感させられる。悔しい。
あぁ、なるほど。楽しい。
一流(かげやま)が言っていたのはこれか。
確かにこれは、言葉には言い表せない高揚感。試合とは別の“楽しさ”。

『知者は楽しむ』の意味は『一流はいつだって楽しめる』。
そういうことにしておこう。正解か不正解かなんてこの際どうでもいい。
俺の答えは “それ” だ。

……でも、やっぱりコートの中にいるほうが、何倍も、何十倍も “楽しい” 。

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