影山(弟)は実はチート。No.2

楽 ページ4

ベンチって、こんなに遠かったか？
コートって、こんなに広かったか？
ボールって、こんなに速かったか？

遠い、手を伸ばしても届かない。
視界が広い、目に入ってくる情報量が多い。
普段と、全く違う。

シュッと音を立ててあがるサーブトス。
低音を響かせて空間を切り裂くボールに、構えるレシーバー。
今 “観る” と、恐怖を覚えるような威力とスピード。
彼らは、それがスローモーションに視えるかのように操る。
「ナイスレシーブ」
……俺も、そこに居たらこんなプレーくらいできるのに。

きれいなAパス。
少し回転がかかってるか？
だが良い位置。高さも完璧だろ。
Aパスは、セッターの手に吸い込まれる。
フォームも崩れてない。読みにくいが、牛島さん。

ドガッ＿＿！

「ナイスキー」
ほらきた。
牛島さんもまだ本調子じゃねぇ。
こっちの得点だが、コースが甘かった。
それは牛島さんもわかっている。
……俺なら、今のストレートもあげられたのに。

工から飛んでいくサーブ。
ちゃんと振り抜きは意識できたか？
コースは良い。フォームも良かった。
だがギリギリだ。少しブレた。
トスが高かったか。
本人もビビったらしい。ホッと息をついている。
……俺が居たら、声をかけてやれたのに。

盛り上がる応援。
増えていく得点。
笑う雲雀田監督。
開かれる月バリ。
目が輝く記者達。
声が響く解説者。
興奮が増す観衆。
……そこに居たら、何一つ気づかなかったのに。

“そこ” に居てぇよ。
ボールに触れたい。
歓声が欲しい。
回転を視たい。
仲間の後ろを守りたい。
コートの、ボールの、圧迫感を、息苦しさをくれ。
俺はもっと、もっとコートに立っていたい。

あぁ、だが、これも楽しい。

俺は観衆じゃねぇ。
応援でもねぇ。
ベンチでもねぇ。

普段と違う場所、状況、視界。
だからこそ “観える” 。
俺は、山形さんを観る。
俺とは真逆のリベロ。
俺にないものばかりを持っている。
探せ。

雰囲気じゃねぇ、プレースタイルじゃねぇ。
もっと、決定的に違う何かが。
何だ。何だ。
この差を作っているのは。

声かけの仕方、ここからは聞こえねぇ。
ボールのあげ方、これじゃねぇ。

……目線？
試合中、俺の記憶にあるのはボールの回転、スピード、セッター。
山形さんは、よく目を動かす。
他のレシーバーの位置、状況、レシーブの得手不得手。
アタッカーの余裕、助走、タイミング。

その把握ができていてもおかしくねぇ。
なるほど、今度聞こう。
悔しい、楽しい。

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