影山(弟)は実はチート。No.2

天敵 ページ26

……にしても、この違和感は何だ？
いや、俺のことじゃなく、工。

騒がしいこいつだが、普段は調子にむらもなく、安定したプレーで得点するのを評価されている。
そうでなければ、鷲匠監督はスタメンを開けねぇ。

ただの上振れなら良い。
たまたまと断言できるなら良い。
こいつとの試合が最後なら良い。

だが、この動画を見る限り、たまたまとは言えない。
少なくとも、あと、まるまる二年はチームメイトだ。
微かに感じる程度のフォームの違和感。
サーブの直後か……？

「A、昨日から動画(それ)みすぎじゃね？緊張？」
……当の本人は何も思ってねぇらしいが。
「ちげーよ、緊張してんのはお前だろ」
さっきからトイレ何回目だよ。
時間になったら呼んでやるからトイレにこもっとけ。
無駄に体力使うな。

「ぐぬ……。にしても、決勝梟谷とかー。まさか、ここまで登ってくるとはな」
一本指宣言はかっこよかったけど。
「……俺、梟谷苦手だ」
「は？」
どう言えば良いのかはわからねぇ。
ただ、対戦するときに気が乗らねぇのは事実。

「烏野と、同じようで違う雰囲気だろ。稲荷崎は全く同類と言っても違和感はねぇが」
「……実力は稲荷崎のが上だろ」
そうじゃねぇよ。

「稲荷崎と烏野は"なにかやらかしてくるだろう"って思っただろ」
変人速攻、双子速攻、シンクロ攻撃、エトセトラ。
何かを隠し持ってることをなんとなく感づいて、それが俺等にとって確実に脅威になるときに使ってくることも予測ができる。
体制が整わねぇとき、ブレイクされているとき。

「だが、梟谷は"確実に"何かをぶっ込んでくんだよ」
隠し持っているわけでもなく、それを俺らに確実に脅威になってくるときに使うわけでもねぇ。

「楽しく試合を進めて、途中で面白いことを思いついて、打ち合わせも何もせずそのままぶっ込んでくる」

それが、守備特化型選手(リベロ)にとってどれだけ恐ろしいか。
相手の武器が飛んでくるタイミングを把握しなければ、対応は確実に遅れる。
そしてそのタイミングを、俺らはコートの状況、流れ、駆け引きから読み取る。
そのままぶっ込んでくることの何が脅威かといえばそこだ。
流れも全部無視して駆け引きもなしに持ってこられる。
ここまで言えば、もう分かるだろう。

しかも、エースもエースなら、セッターもセッター。
エースのしたいことを全て読み取って真顔でやってのける。
「……厄介すぎるだろ」
まぁ、これが決勝なのは、正直安心できる要素だ。

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