影山(弟)は実はチート。No.2

解の公式 ページ22

かつて俺に、信じていると誰かが告げたとき、俺は嬉しかっただろうか。
……多分、嬉しかったと思う。
実力が認められた証拠だし、信頼されていたからこそ聞けた言葉だ。

「Aー！」
「影山ぁああ！」
このチームに入って、信じていると言われる回数は減った。
ただ、名前を呼ばれる回数は、格段に増えた。

意味はどっちも同じだと思うが、名前を呼ばれたほうが嬉しいと感じるのはなぜだろうか。
承認欲求か、自己顕示欲か。はたまた、その両方かもしれない。

「ナイストス、影山」
「あざす。……ちょっと高かったっすよね。修正します」
白布さんのように丁寧にあげようとすると遅れる。
だが、スピードを保とうとするとブレる。
後で白布さんに相談するか。

「A、あれ、俺もできる？！」
無茶だろ。
今のは完全なるマグレ。試合で何発も使って良いもんじゃねぇ。
そう言うと、鷲匠監督からの激もあり、工はそそくさと自分のポジションに戻っていった。

次のサーブ、工。
パンッと気持ちの良い音が後ろから聞こえる。
調子は良さそうだな。
視界の端から相手コート、佐久早聖臣と古森元也とちょうど間に飛んでいくボール。
良いコース。
本来ならリベロが取る位置だが、佐久早聖臣もレセプションは得意分野。
迷う余地はあるだろう。

ドッ＿＿！

取ったのは古森元也。
僅かに乱れた。
だが、素早く定位置に戻り、助走スペースを確保する。
上手い。

オープン、佐久早聖臣。
「＿＿！」
俺の位置を確認するかのように目が合う。
それは、俺を狙うためか、避けるためか、混乱させるためか。
最後の手には乗らねぇ。

ダジュッ＿＿！

いつものインパクトに加え、強烈なスピードでボールを"きる"音が響く。
まっすぐ向かってくる"緑色"のボール。
得も言わせぬ左回転。
見たことも、想像したこともないほどの回転スピード。
これは、曲がる。
二歩と半歩左。
「……クソ」

曲がりすぎだろ。
大きく一歩前、さらに二歩左。
届かねぇ、クソ。
届け。

"＿＿"。

ふわ＿＿。

「っらぁ！」
「＿＿ナイスッ！」

我ながら最高のAパス。
そのまま、元の色に戻ったボールは相手コートへ突き刺さる。

なんだ、これ。
……一瞬、思考が途切れた。
自分で怖くなるほどに、膨大な情報が脳を流れたのがわかる。
そして、五文字。五文字だけ大きく主張した言葉があった。
思い出せ。思い出せ。

___。("フライング")

……あぁ、これだ。
あの瞬間の最適解。
一番気持ち良い、解の公式。

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