影山(弟)は実はチート。No.2

脅迫 ページ21

魔の三日目も無事終了。
未だ一セットもこぼしていない俺らは、徐々に注目されつつある。
ありがたいことだが、その分、リベロの注目度も必然と上がる。

「今回からのスタメンは固定。リベロはA、他はそのまま」
「はい！」
ベスト四。
ここからの道のりはとてつもなく厳しい。
まぁ、そりゃ、全国の最強を獲りに来た四天王と思えば、考えるまでもないが。

何より、この試合の相手はインターハイで黒星をつけられた井闥山。
リベンジと、IH優勝者への挑戦状、春高優勝への切符、先輩の引退。
全てをかけた一戦。

どんな試合でも当たり前だが、負けられねぇ。
試合が近づくほど緊張が走る。

……大丈夫。俺ならできる。

今重圧を感じているのは俺じゃない。
それに、直前まで尊敬する先輩の背中を視せてもらっただろ。
ここに来てもなお、バレーの道を止まらず突っ走り続ける、輝かしい背中を。

「影山！負けねぇからな！」
「俺も負けません」

きっと、俺らのバレーにはスタートもゴールも存在しない。
ただ、楽しいと主張するだけのボールを追いかけているだけだ。

ピー＿＿！

聞き慣れた笛の音が、試合のゴングを鳴らす。

最初、サーブ、佐久早聖臣。
ユースのおかげで、手の内はさらされている。
佐久早聖臣も、俺も。

回転、手首、肘の向き。
よく視ろ。

高めのサーブトス。
緩い右回転。
縦方向にも僅かに回転。
ドライブの向きではねぇ。
位置は右方向。
スイング。
手首はいつも通り。
肩の動きはデカめ。
肘をしっかり引っ張る、きれいなフォーム。
インパクト。
ボールの芯を捉えない(・・・・)。
向かって左側。

なら、レシーバーは。
「工！」

回転。
左側から前に"擦る"。
工のフォーム。
重心は真ん中。
腰は少々高い。
腕のフォームは正しい。
だが、右肩が上がっている。

弾いた、フォロー。
ダッシュで十歩右、二歩後。
高く上がっているため、余裕は十分。
届く。

相手コート。
向かって右。
佐久早聖臣と古森元也は定位置。
……クソ、想定内ってか。

だが。
「影山」
俺の視界に入っているのは、既に助走に入っている牛島さん。

『影山、俺の調整に付き合ってくれるか』

崩れた状態からの、後ろからの二段トス、ファーストテンポ。
頼まれたのは今朝。
成功する確証はねぇ。
だが、メリット、高揚感のほうがデケぇ。
狙うべきは最高到達点のみ。

「牛島さん！」

ドガッ＿＿！

ピッ＿＿！

この脅迫(しんらい)が、重荷であったことがあるか。

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