影山(弟)は実はチート。No.2

猫の目 ページ13

孤爪side

「にしても、九番は温存かね？」
「舐めてんすかね、ペロペロっすかぁ？！」
「トラやめて」
でも、温存なら昨日の試合にもでなかったと思う。
それに、基本的にリベロは温存しない。全国でならなおさら。

「でも、あの九番最初から出したとして、対策なんてできないだろ」
できるとしたらIHのときにやってるし、と夜っくんは続ける。
「そもそもトップレベルのリベロに対してできる対策なんか、いないほうに打つ、ぐらいしかねぇ」
苦手な回転でもあれば別だけど。

「あの九番そんなに上手いんすか！夜久さんより小っさいのに！」
夜っくんが言うなら相当だろう、とみんなが息を呑む中、やはりリエーフが蹴られる。

「ま、どうせなら引きずり出したいところだけど……」
「良いんじゃない」
引きずり出すくらいならできると思う。
少なくとも、向こうの監督はここでつまづくつもりは無さそうだし。
「まずはタイムアウトを取らせないとね」
はじめにスピードを上げてブレイクをしたら、ちょっとは焦ってくれるかな。

「研磨が乗り気だぞ？！」
「ここまで乗り気なのは珍しいね」
「別に、乗り気なわけじゃないし。ただ、翔陽の敵を取るのは面白そうだと思っただけ」

翔陽と戦えなかったのは悲しいけど、おれらには来年もあるわけだし、そんなことを今更悔やんでもどうしようもない。
今の相手は烏野じゃないし、何を願ってもウシワカのスパイクは軽くならない。

ピー____！

ドドッ____！

ウシワカからのサーブ。
きれいなAパス。
こういう場面で高確率で安足したAパスを上げられる夜っくんは流石だと思う。
「ナイスレシーブ！」

大事な一発目、ここはバックから福永で正確に。

スタッ____。

ピッ____！

次のサーブはリエーフ。
二。
センター攻撃を抑えるために、サーブはできるだけミドルを狙う。
コートを九分割し、指示したところに打ってもらう。
クロとかトラみたいに、全員がサーブで点が取れたらいいけど、うちはそうじゃない。

ピーッ____！

トッ____。

乱れた。
ウシワカは後衛、なら八番。
「五色！」

ドドッ____！

「うぇーい」
「ナイスっす！」

おれたちが負けたところで、勝ったところで、誰も死なないし生き返らないし、悪は栄えないし、世界は滅びない。
壮大な世界を駆け巡るでもなく、ただ9×18mの四角の中でボールを落とさないことに必死になるだけ。

「ほんと、面白い」

誰に語るでもなく口からこぼれた感想は、多分クロにも聞こえてないと思う。

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