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vol.64 ページ22

今思うと、高木さんと伊野尾は単なる担当の看護師と患者という関係ではなかったのだろうと思う。
きっと見えない何かで繋がっている、友達…それ以上のもの。


きっと、伊野尾だけじゃなく俺も皆も周りの誰かに知らない間に助けてもらっているのかもしれない。
それがどんな形であれ、ちゃんと自分の周りには誰かがいて、決して一人ではないということだ。



俺が挫折した時も、伊野尾の他にも光が助けてくれた。
彼は元々、言葉で多くを語ろうとしないタイプだし、説教じみた事も言わない。
だから遠まわしに教えてくれていたのかもしれない。
俺は気づかなかっただけで。




「それじゃあ、またどこかで。」

「うん、これ大切にするね。」



ずっと今まで持ってきたのであろう高木さんから貰った瓶を大事そうに抱える。
高木さんはそれを見て笑った。





「薮。」

「どうしたの?」



病院の外、晴れ渡る空を見て伊野尾は微笑んだ。
その横顔を見て、思わず俺も微笑んだ。



「あの曲、絶対に完成させるから。」

「時間はたくさんあるよ。大丈夫。」



彼の奏でる旋律はどんな音なのだろう。
まだ彼の音を聞いたことのない俺はドキドキしている。


同じ楽器を演奏していても、人によって音色が違うんだよ。
両親からはそう教えられていた。
当時の俺は全く理解できなくて、何のことだろうと首を捻ってばかりいた。



だけど今なら何となくそれが理解できる。
遅すぎると言われるかもしれないけれど、やっと分かった。


それは俺が音楽家の一族で、絶対音感を持っているからという理由ではなくて。
聴覚よりももっと奥、心の底にあるもう一つの感覚がそれを理解してくれる。



「ゆっくりでいい。自分の満足いくものを作り上げることが大切だ。」

「…ん?」

「それを教えてくれたのは伊野尾でしょ?」



花束の満開の花が良く似合う笑顔で伊野尾は笑った。



「可能性があるなら諦めちゃいけない。」

「……え。」

「これは薮が教えてくれた。」



俺たちはお互いに顔を見合わせて笑った。
太陽の日差しをたくさん浴びて、きっと雨の止んだその空には虹が架かっているのだろう。

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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい! (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました!!私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました!有難うございました! (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…!嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした!またいつでも覗きに来てくださいね! (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:のみなぎ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2017年4月30日 23時

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