曖昧 me mind 2

vol.44 ページ2

「伊野ちゃん、ハッピーバースデー!!」



パーン、と自分でクラッカーの効果音を入れながら病室に入ってきたのは、ずっと待っていた大ちゃん。
相変わらずスーツが似合わなくて、社会人になってもうずいぶん経つのに未だに笑ってしまう。



「ありがとう、大ちゃん。」

「これ、誕生日プレゼント。」


渡されたプレゼントを開けると、そこにはあの駅前のプリンが入っていた。
だけど何かが違っている。
包装が変わった？いや、違う。



「……キャラメル味？」

「うん！新商品だって。俺も食べたことないんだよね。」



へぇ、と頷いてふと手元のプレゼントを見ると小さな箱がまだ入っていた。
何だろう、と箱を開けてみると



「えっ…！」


中にはオルゴールが入っていた。
箱を開けたことによって音楽が流れている。
その曲は懐かしく、今まで一度も忘れなかった思い出の曲。



「伊野尾ちゃん、音楽室でよくこの曲弾いてたからさ。また聞かせてよ、俺との約束！」

「…うん！退院したら……ね。」




大ちゃんと話していると、心の奥にあった黒い塊が溶かされていくようだった。
いつも元気で明るい大ちゃんはその元気を俺に分けてくれているようで。


だけど、どれだけ話していてもふとした瞬間に薮さんの事を思い出してしまう。



「ねぇ大ちゃん。もしもの話、してもいい？」

「もしもの話？いいけど、何それ？」


日も長くなってきて、夕方の6時だというのにまだ明るい。
窓の外を、暗くなってゆく空を呆然と見て呟いた。



「大切な人に酷い事を言ってしまったら、大ちゃんはどうする？」

「俺？……とりあえずちゃんと謝る、かな？自分が悪いって思ってるならね。」

「…そっか。」

「どうしたの？」



手に持ったオルゴールを大事に両手で包み込む。
きっと大ちゃんは素直だから、自分が悪いって非を認めることができるんだ。
だけど俺は、素直にはなれないから相手を傷つけて自分まで傷ついてしまう。


……すっごく不器用だ。
だけど大ちゃんの言う通りだと思う。



きっと薮さんなら、笑ってくれるはずだ。




最近は更新されなくなった『青空日和』も、メールのやりとりも。
きっと一時的なもので、またすぐ笑えるようになる。


『大切な人』だから。





6時を少し過ぎた頃、大ちゃんは帰って行った。
忙しはずなのに、俺の誕生日を祝う為に来てくれたというだけで嬉しかった。



キャラメル味のプリンは明日の為に取っておこう。

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