vol.43 ページ1
side 慧
6月22日。
小さいときはこの日を待ちわびていたのをよく覚えている。
皆からもらう『おめでとう』の言葉をニコニコしながら受け取って。
自分の歳の数のロウソクを一気に吹き消すのが、たまらなく嬉しかった。
「お誕生日おめでとう、伊野尾くん。」
はい、と渡されたのはガラスの小瓶。
その中には海の砂と浜辺で拾ったのであろう小さな貝殻達。
軽く振れば砂と貝のサラサラ、カラカラと音がする。
この間、高ぶった感情を制御できずに床にばら撒いてしまった砂。
ガラスの瓶は音を立てて割れ、高木が危ないからと片づけてくれた。
ごめん、と謝ってみたものの高木は気にしなくていいよと言っていた。
だけど、そんなのウソだ。
だって自分がプレゼントしたものを壊されて、いいよなんて言えない。
「ホントにこんなので良かったの？」
「うん、嬉しいよ。」
誕生日プレゼントは何がいいかと聞かれ、答えたのがこれだ。
海なんてもう何年も行っていない。
だからせめて、外の世界を知ることができるものをと思って頼んだのがこれだ。
「それじゃあ俺、この後やることあるから。」
最後にもう一度、お誕生日おめでとう。
そう言い残して高木は部屋を出た。
相変わらずご飯はあまり喉を通らないけれど、それでも朝から両親が持ってきてくれたケーキは少しだけ食べられたし、まったく食べられない訳じゃない。
体調も前に比べると少しずつ安定してきている。
だからと言って油断は禁物だと何度も言われたけれど、相変わらず俺には生きる意志がない。
……生きる意志が無い、はちょっと大げさかな。
正しくは生きる事に価値を見いだせない。
「……あ。」
昨日からネットも解禁されて、長時間は駄目だけど少しの間なら許可も出た。
だけど履歴に出てくる『薮さん』の文字を見ると、心が少し苦しくなった。
『新着メッセージがあります』
ただ、薮さんよりも履歴が新しいのは
『大ちゃん
伊野ちゃん久しぶり！今日は早く仕事が終わるからソッコーで会いに行くね！』
今にも飛んで来そうな元気のある本文に、思わずクスッとしてしまう。
最近は忙しいみたいで、連絡をするのも気が引けていたけれど。
それでも大ちゃんは俺のことを忘れた訳ではなかったのだと思うと安心する。
……やっぱり友達っていいな。
心の底からそう思える瞬間だった。
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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (
レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい！ (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました！！私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました！有難うございました！ (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…！嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした！またいつでも覗きに来てくださいね！ (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
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