vol.46 ページ4
side 薮
俺が切り出したのは自分でも話すことを避けていた『あの話』のこと。
ずっとずっと触れないように、固く固く閉ざした箱の中にしまっていた話。
鍵を何重にも掛けて、誰にも見られないように、触れられないように。
そうやって自分を守っていた。
だけど伊野尾さんと出会って、彼の事を知っていく中で。
これじゃ駄目だなって思える自分が居た。
どこに逃げようとも必ずその影が付きまとってきて。
もう逃げるのはやめにしよう。
どこに居ても、その後ろには逃げられない影がある。
だから、立ち向かおう。
『彼なら俺を変えてくれるかもしれない』
最初はそんな自己中心的な理由で近づいた最低な俺。
だけど本当に彼は俺を変えてくれた。
境遇がどうとかじゃない。
自分が不幸だとか幸せだとか決めるのは、まだ今の俺じゃない。
人生が不幸か幸せかを決める事ができるのは、死ぬ直前の自分自身だ。
だから今なら、まだ不幸を幸福に変えることが出来る。
「……伊野尾さん、前に俺が綺麗で自分には無い物をいっぱい持ってるって言いましたよね。」
「あ……いや、それは…」
「気にしなくていいですよ、むしろ伊野尾さんの目にはそう映っていたことが意外だったので、その…驚きました。」
そんな事、初めて言われた。
だからその時はほっとしたんだ。
大丈夫だ、バレてない。
だけど次第に心の中のモヤモヤが大きくなって。
いつもなら光にSOSを出すけれど、最近はそれすら億劫になっていた。
「薮宏太って言うんです、俺のフルネーム。」
「ふふ、初めて聞いたかもしれないです。」
「もちろん、初めて言いましたから。」
目線が合って、二人で笑う。
あぁそうだ、この温度だ。
俺がずっと求めていた温度は。
「俺、作詞家なんです。」
そうだったんですか！、と興味津々で聞いてくれる伊野尾さんの目はキラキラと輝いている。
だけど俺はその目を逸らした。
「ただ、最近は何も書けないままなんです。笑っちゃいますよね。」
「書けない、と言うのは？」
………ダメだ。
また逃げようとしている。
俺は自分の中に入る『弱い自分』を既に認識していたのかもしれない。
弱い自分を人に知られたくないから、こうやって歯切れの悪い言葉を並べるんだ。
だから、決めた。
もう逃げるのはここで終わりだ。
長かった追いかけっこが、ここで終わるんだ。
「……スランプ、ってやつです。」
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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (
レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい！ (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました！！私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました！有難うございました！ (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…！嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした！またいつでも覗きに来てくださいね！ (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
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