タルトデート(５) ページ25
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なずな「ふふ、よかった！」
わたしの心臓はもうこれ以上早くなれないほどのスピードで脈打っていた。
顔…あつい。
「わたしのも…食べていいよ。」
気を紛らわすように仁兎くんと同じようにしてフォークを突き出す。
ちらりと仁兎くんを見ると目をまん丸くして驚いてる。
「…！あ、えと…自分のでとる？よね…？あはは、はは…」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ぱく、
「え？」
なずな「こっちもおいしいにゃ！」
すぐさま引っ込めようとした腕は仁兎くんに捕まれ、フォークに掬われた私の白桃のタルトは仁兎くんの口の中に吸い込まれていった。
もう頭の中は真っ白。
仁兎くんが？私と？間接キス…？
右手に持ったフォークに目線を落とす。
今日本当に私の命日になるかもしれない。
『食後のお飲み物をお持ちいたしました！フルーツティーとバニラティーになります。ご注文は以上でよろしいですか？』
なずな「はい、大丈夫です！」
ちらりと仁兎くんを見やるけれど、ものすごく余裕そう。
…そう…だよね…こういうのはアイドルって慣れてるよね…
そう思うと少しずつ落ち着いてきた。
こんなにもドキドキした私が滑稽に見えてきた。
来るとき何度も言ったじゃないか。
大学の同級生なだけだって。
それ以上でもそれ以下でもないって。
「え！このフルーツティー、いっぱい果物入ってる！」
さっきのことがなかったかのように振る舞うよう努める。
これからも仁兎くんと仲良くやっていくのにはこうするべき。いや、こうするしかないんだ。
なずな「こっちにはシナモンも刺さってる！」
「いいにおいもする！」
この気持ちは悟られてはならない。
悟られるようなことがあったらこれまで通りにはいかない。
みみちゃんにも、両親にも、ちーちゃんにも背中を押されたけど私にはその一歩を踏み出す勇気がない。
もしうまくいかなかったら、と思うと怖くて。
もしわたしの一方通行だったら、と思うと今の関係に縋っていたくて。
もし…仁兎くんが私の事を拒絶したら、と思うと足が竦んで一歩も身動きができなくて。
結局「いい友達」のポジションから抜け出す術を私は知らないんだ。
否、知ろうとしないんだ。
渦巻く思いを甘くて少し苦いフルーツティーと共に飲み干した。
この日の数日後、仁兎くんはRa*bits主催のライブを期にアイドルに復帰した。
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作者名：小野屋 | 作成日時：2020年5月28日 17時
