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十二 ページ13

ギシギシ廊下が軋む。


斉藤もポニーテールも何も話さない。


微かな風に木の葉が擦れる音すらこの空間には響く。


あれほどしつこく言い寄ってきていたポニーテールが、まるでお通夜みたいに黙りこくって歩いている。


…斉藤は、バナナショックから立ち直れていないみたいだけど。


あれ。というか、室町時代の日本人はバナナなんて知らないんじゃ?


それに、日本人で地毛金髪ってかなり珍しくない?


少し考えたけれど、思い返せばここは僕の世界とは異なる異世界。


僕が知っている室町時代は、ここの室町時代とは違うんだ。


一人で納得していると、ポニーテールが口を開いた。


「私は立花仙蔵だ」


さっきとは打って変わって、冷たい雰囲気。


「…僕は浦霧A」


好きも嫌いも特にない、必要最低限の自己紹介。


これが本当のコイツ。


ヘラヘラ笑って媚びへつらう時のアイツよりも、こっちのほうがずっと話しやすい気がする。


立花は小さく振り向いて、僕を睨むような目で見た。


知っている。


嫌悪と憎しみで溢れた、哀しい瞳。


玲夜が自分の親の話をする時、よくこんな目をしていた。


睨み返した。


僕が今どんな目をしているのかは分からなかったけど、先に目をそらしたのは立花だった。


「浦霧」


「何、立花」


立花、と言った時に背中が少し揺れた。


名前で呼ばれるのを期待してたのかな?


「貴様、なぜここに来た」


…なぜ…。


「…向こうの世界が嫌になったからかな」


好きって気持ちに口出しされるのに。


愛を自由な形で営めないのに。


認められようと必死にあがくのに。


少し、疲れてしまったから。


「息が、しにくかったからかな」


学校でも家でも。僕と玲夜を見るのは嫌悪、哀れみ、恐怖の目。


頭上から降り注ぐのは暴言、暴力、批判。


視線にも声にも押しつぶされて、息が出来なくなったから。


「愛したかったから」


玲夜を。


「愛されたかったから」


玲夜に。


「小さくて良いから、居場所が欲しかったんだよ」


世界に。


好きって、そんなにいけないことだったのかなぁ。


好きな人には、食べられたいと思う。


それが僕の普通だから。


だってそうじゃん。僕の体の一部が、彼の体の一部となる。それってつまり、一つになれたってことじゃないのかな。


玲夜からなら、どんな痛みでも傷でも受け止められるんだ。


不思議。


もう立花は口を開かなかった。

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- 面白いです。お互い更新頑張りましょう (9月9日 13時) (レス) id: ffd33a398f (このIDを非表示/違反報告)
夜桜ほたる(プロフ) - すごく面白いです!!!更新楽しみにしてます〜!! (8月17日 9時) (レス) id: 1600cbbb8f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:死雷夢 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年8月16日 13時

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