十 ページ11
目を開く。
消毒液の匂いが鼻につく。
真っ白な天井が眩しい。
頭痛も涙もどこかへ消えていて、心はすっかり軽かった。
寝転んだまま天井を見上げていると、誰かが僕の顔を覗き込んできた。
「あ!Aさん、起きた!」
「…しんべえくん」
しんべえくんの目には、溢れんばかりに涙がたまっていた。
「急に倒れちゃうからびっくりしたんですよ〜!」
「あはは、ごめんな。とりあえず鼻チーンってしようか」
鼻水をかむように促すと、後ろから「あの」と声をかけられた。
振り返ると、ポニーテールの子…きり丸くん、だっけか…が僕を不安そうに見つめている。
「あの、おれ、すいません」
「…何の事?」
「え、あの、親の話…」
「…ねえ」
きり丸くんの肩をつかんだ。
怯えたような、驚いたような表情。
「いい?僕は君から何も聞いていないし、君も僕について何も聞いていない。会わなかったことにしよう、そのほうがお互い安全だ」
「…え?」
「僕と君たちが会ったという事実は、なかったことにしよう」
じゃ、と告げて立ち上がる。
部屋を出て、馬鹿みたいに長い廊下に一歩踏み出した。
足取りが軽い。
頬がゆるんで仕方がない。
玲夜…この世界にいるんだ。
そして、会える未来はきっと近い。
会えたら、また僕を食べてくれるかな?
僕を愛してるって言って、笑ってくれるかな?
胸元のペンダントをしっかり握りしめる。
玲夜の瞳の色…白と紫の、玲夜とおそろいのペンダント。
幸せに浸っていると、急に目の前が陰った。
「あ、天女様…ああ失礼、天人様でしたね〜」
反射的にぶん殴りたくなった。
目の前に立っているのは、紫の服に身を包んだ金髪の青年。
片手にハサミらしき物、もう片方にはクシを持って立っている。
年上だろうか?
「…なんか用ですか、金髪さん」
「金髪…?あ〜…俺、斉藤タカ丸です。天人様の髪の毛、きれいだなぁ〜と思って…髪結いさせていただけませんか〜?」
「ヤです、というか邪魔なんですけど」
斉藤の横を通ろうとすると、腕を掴まれてしまった。
「え〜、良いじゃないですか」
「離してくれますか」
「髪結いさせてくれるって言うまで離しません〜」
その顔を睨みつけるが、斉藤はにこにこと笑っているだけだ。
「タカ丸さん、離してあげたらどうですか?嫌がっているようですし」
斉藤の後ろから、声が聞こえた。
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空 - 面白いです。お互い更新頑張りましょう (9月9日 13時) (レス) id: ffd33a398f (このIDを非表示/違反報告)
夜桜ほたる(プロフ) - すごく面白いです!!!更新楽しみにしてます〜!! (8月17日 9時) (レス) id: 1600cbbb8f (このIDを非表示/違反報告)
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