第86話 2月の憂鬱 ページ43
「はあ…この時期になると憂鬱になるよな。」
外を眺めながら
皐は呟いた。
学年末のテストを終えた3年生に残されたのは
自由登校と、卒様式のみ。
進学先も決まっているこの時期に
憂鬱なことといえば、
一つぐらいしか当てはまらない。
「…あー、おまが言うのは、
“あれ”のことか。」
皐の溜息の原因が分かった雪音は
ニヤニヤしながら皐を見つめた。
-
「あ、皐、じゃーねー!」
「ばいばーい。」
放課後
教室には誰もいなくなり、
皐は急いで片付けを始めていた。
「なんで雪音帰っちゃうかな?!
私が困っていると知っておきながら!」
時計をチラチラと確認しながら
バックに乱雑に荷物を詰めて、教室の鍵を持つ。
「よし!これでバッチグー!」
「何がバッチグーなの?」
「はっはっは!
これで幸村とあー…あー、あ――――――います。」
「フフッ、俺と会うのはいつものことでしょ?」
「Oh!魔王さまに見つかち待ってぜ!」
なんて、心の中で思いながら、扉の鍵を回した。
「皐は俺と会うたびに、
いつも失礼なこと考えてるなあ…
俺のどこが怖いんだか。」
ふう、と、睫毛を伏せた幸村。
確かにその姿や行動は、只の女子だ。
私と目が合えば、
控えめに、クスクス、と、笑う声が漏れて
優雅に微笑んだ。
「何、笑ってんだか。」
大人になれ、私。
と心の中で呟き、職員室への足を速めた。
「しつれいしやした!」
バタン、と、職員室の扉を閉めた。
「雑に閉めると、ドアが壊れるからね?」
「毎日お説教をすんな!
さっきだって桜野に怒鳴られたんだからな?!」
「3者面談?」
「よく分かっておいでで。」
小さく舌打ちをして、
イライラした気持ちを抑えながら、階段を下った。
校舎には誰もいないのか、
教室あたりから、漏れてくる声はない。
「そーいえばさ、
お前、なんで教室に来た?」
足を止めて、後ろを振り返った。
幸村は、私の発言に目を丸すると、
一歩、こちらに足を踏み出す。
凍った水たまりにヒビが入り、
パキン、と、音がした。
「ただ、皐と帰りたかったから、
それだけの、理由だよ。」
「_______そ、」
背中を向けて、校門をくぐる。
その時、後ろから小さく笑い声が聞こえた。
「フフッ、照れ隠し、下手くそだね。」
多分私は、耳まで真っ赤。
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作者ホームページ:なし 作成日時:2015年10月19日 17時