【銀魂】だいすき、愛する人よ

番外篇「しあわせ」 ページ43

『……誰もいないですね』


日付けの変わった頃、波打ち際でAは履いていたサンダルを片方脱ぎ、恐る恐る爪先を付けた


『ガラス踏んで怪我するなよ』
『確かに見えないから踏んでしまいそうです』


俺の方へ駆け足で戻り「始めましょう」と胸の前で手を握った。
持っていたビニール袋からそれを取り出し、一つ一つ封を開けていく



『花火なんて、久しぶりです』


どんな花火かの説明を目を凝らして読む。
横に並べていき、どれからやろうかと目を輝かせていた



『これ、七色に光るらしいですよ！』
『……なら、それからやるか』


暗黙の了解で線香花火は最後の為、まだ袋から出していない。分かりやすい所に置いておき、俺はロウソクに火を灯す



そこへ花火の先端をつければ、たちまち火花が夜の暗さを仄かに照らした。
煙がAの表情を隠そうとするも、それに負けないくらい晴れた笑顔を向けている



『綺麗ですね！』
『そうだな』



……こうして全ての花火をやり、残るは線香花火だけになった。
Aはどちらが長くできるか勝負しようと言い出し、俺はそれに乗ってやる



睨みつけるように手元の線香花火から目を逸らさず、必死になっている彼女に笑いが零れてしまう。
名前を呼んでもこちらを見ない彼女に、少々悪戯してやろうかと一つの案が浮かんだ


『A』
『……もう、なんですか』



「集中してるんです」と頬を膨らまし、俺の方を見ようともしない。
耳元に口を寄せ、ふっと息を吹きかければ驚いて肩を跳ねさせる


火花を散らしていた玉は砂浜へと落ち、俺の手元の花火だけが光っていた



『……落ちたな』
『ずるいです！ 晋助さん！』


もう、と結んだ口を解かせるように自分のを重ねれば、声にならない悲鳴をあげる。
終いには俺から顔を背け、唇を尖らせてしまう


その時にはもう俺の線香花火も消えており、ロウソクだけがユラユラと頼りなく灯されている



『罰ゲームは晋助さんです！』
『そんなのあったか？』


ただ勝負しようと言っていただけであり、特に罰ゲームなどは考えていなかった。
しかしAが先に落ちるのなら、決めても面白かったのかもしれない。



『今決めました！ 帰りにアイス買ってください』
『好きなだけ買ってやるよ』



急に笑顔になったAは「じゃあ早速」と俺の手を引いて近くのコンビニを指差す。
二人並んで歩き指と指を絡ませれば、小さな力できゅっと握り返した


かけがえのない、俺の幸せ

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