或るバーでの出来事 ページ3
とあるバーの前に、一人の男が立っていた。
緊張した面持ちで、バー・IRODORIに入っていく。
「す、すいませーん……」
男の声が響く。照明も内装も黒い店内では、足下が真っ暗だ。
「いらっしゃい」
マスターが、男の方を見ないまま言った。
三十代くらいだろうか、店内と同じ、真っ黒な服と髪をしていた。
「注文は?」
「え?えぇと……」
唐突に訊かれ、男は戸惑う。「……すいません、俺こういう所、あんまり来た事なくて……」
マスターは答えず、手際良くグラスに酒を注ぐ。
「……どうぞ」
「……えーと、これは……?」
差し出された真っ黒な液体を見て、男は困惑したように訊ねる。
「私のオリジナルです。美味しいですよ」
彼はそう言って、からかうようにクスリと笑う。
「……はぁ……」
「ちょっとマスター、お客さんにそんなの飲ませてどうするのー!」
「わっ!?」と男は思わず声を上げる。
いつの間にか、隣に若い女性が座っていたのだ。
「次から来てくれなくなっちゃうでしょ!」
「すみません、
黄泉と呼ばれた女性は「要らないよそんなの!」と口を尖らせる。随分酒が回っているらしい。
「にしてもキミ、見かけない顔だねー。ここらの人じゃないでしょ?どこから来たの?」
黄泉がずいっと顔を近づけて来る。彼女の整った顔立ちが、男のすぐ近くにある。金色のショートヘアが、顔に当たってくすぐったい。
「ま、まぁ……田舎の方から」
「へぇ、そうなんだ!でもキミ、ただ興味で来たわけでもなさそうだし……誰か探してない?」
黄泉の台詞に、男は図星とでも言いたげな分かりやすい表情を浮かべる。
「えっ……な、何でそう思うんですか?」
「そりゃ思うよー!だってキミ、分かりやすいんだもん。ねぇマスター?」
マスターは変わらず、二人の方を見ないで答えた。
「入った時、どこか期待するように店内を見渡していました。それは誰かと待ち合わせと言うよりも、いなくなった人を探しているようだった」
「……確かに、俺は人を探しています。今日はそれでここに来たんです」
「なるほどぉ、そっちが本題なんだね!」
金子が全てを理解したように言った。マスターの顔をじっと見据え、男は告げる。
「俺の頼みを聞いて貰えますか、マスターさん」「……話なら、聞いてあげますよ」
マスターは、変わらず男を見ないままそう言い、小さく微笑んだ。
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くろーさぎ(プロフ) - ありがとうございます!!これからもよろしくお願い致します♪ (2019年4月26日 19時) (レス) id: 472ca3e356 (このIDを非表示/違反報告)
奈狐(プロフ) - 語彙力が凄く羨ましくです…面白いですね! (2019年4月26日 19時) (レス) id: 70cd26f670 (このIDを非表示/違反報告)
くろーさぎ(プロフ) - ありがとうございます!!嬉しいです……!! (2019年4月22日 16時) (レス) id: 472ca3e356 (このIDを非表示/違反報告)
にゃんたそ(プロフ) - 私の小説より面白いです。語彙力あってうらやましいZ!(*≧∇≦)ノ (2019年4月21日 18時) (レス) id: 0d77839cd9 (このIDを非表示/違反報告)
ミーシャ - https://uranai.nosv.org/u.php/novel/ilodoli/ (2019年4月13日 14時) (レス) id: 472ca3e356 (このIDを非表示/違反報告)
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