歯車《赤》

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あの後は歌番組をそのまま見続けた。


ワイプやディナーショーのようなところで映る関ジャニは可愛らしくて、きっとファンはメロメロなんだろう。

そして、最後の方にたつくんが事務所の先輩の歌の時に演奏者として出ていた。大きな体いっぱいでドラムを叩く。真剣な顔してたと思ったら、楽しそうに叩くし、純粋にいいなと思った。


いつも楽しそうに飲んでるたつくんじゃないけど、こんなたつくんが見るのも悪くは無い。



たつくん、いつ練習してるんだろう。



私が知ってるたつくんは飲んで食べての彼だし、話を聞くと「またいい店知った」とか「この前な」とか楽しい話しか聞かない。今回が仕事の話は初めてだった。

もしかしたらすごく苦労しているのかもしれないな。



忙しいだろうけど、少しだけ会いたくなった。




後でお疲れ様って連絡入れよう。




んふふと一人家で笑っていたら、すばるくんの声がした。ハッとして顔を上げると有名な曲のサビのワンフレーズだった。





『縦の糸はあなた 横の糸はわたし』





たったワンフレーズ。


そのワンフレーズは胸にストンと落ちて、涙腺がうるんだ。



私の家で勝手にタバコを吸って、勝手に私物を持ち込んで、少し色っぽい顔をして細い体で私を抱いて、目元に皺を寄せて笑う私の知っている渋谷すばるはそこには居ない。



人見知りだから緊張しているのか、それとも歌番組だからなのか、それともあれが渋谷すばるだからなのか分からないがテレビの中にいる彼は私が知っている彼ではないように見えた。



あんなに切ない表情をするなんて知らないし、あんなに甘い声を立つなんて私は知らない。





今まで見ないようにしてきた渋谷すばるを今日見てしまった。




見たくないからチャンネルを変えればいいのに変えられなかった。

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