人質の愛し方【不死川実弥】

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｢もう、生(せい)に縋(すが)り付かない。後悔しない。その場の勢いなんかじゃない｣


　だから、殺して。彼女…Aは俺の両頬に優しく触れながらそう言った。何だ、何だこの気持ち。何故嫌だと思う、何故拒みそうになる。

｢…A｣
｢…？｣
｢俺、Aの事が好き｣
｢…｣

　Aは眼を見開いて驚いていた。こんなに血だらけの鬼が、首輪をつけた鎖に繋がれている弱い人間に好意を寄せ、終(しま)いには想いを告げてしまったのだ。


｢…あり、がとう｣

　Aはそれしか言わなかった。分かってる。言えなかったんだ。俺の言葉を受け入れる事も拒絶する事も出来ない。何故なら俺は"鬼"でAは"人間"だから。だから俺はAを鬼にしようと思った。俺がはやく十二鬼月になればそれが出来る。最悪、俺じゃなくても十二鬼月の鬼に頼み込めば良い。
　ずっと一緒に居たかったから。だけどAは人間が良いらしい。人間のまま生きて、人間のまま死にたいらしい。

｢…首をひと突きで良いか？｣
｢…｣

　コクリとAは頷く。最期まで首振りかよ。Aらしいな、そういう所も好きだぜ。
　これで終われるな。やっと首輪を外す事が出来るな。頑張ったな、A。俺もお前の笑顔が見れて満足だぜ
　俺はその場に立ち上がった。Aは目を瞑っていた。そして、手を上へ上げて

｢ありがとう｣

　そう告げて思い切り振り下ろした。




　─────────つもりだった。






｢風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ｣




　そこで俺の思考は停止したのだった。



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