大事 ページ4
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「…ッ!!」
背中越しに気配を感じて、思わずビクつく。誰が来たかなんて、振り向かなくても分かっていた。あえて名前は言わずに静かに気配の元へ振り向く。
「……」
「…よォ」
────表情で、彼女は俺を見ていた。
「俺の事…知ってるかァ?」
自分でも分かるくらい悲しそうに笑ってしまった。今の俺では、彼女と何を話せばいいのか分からない。
「……」
無言で首を横に振る彼女。その表情は、どこか申し訳なさそうだ。あァ、俺の知ってる彼女だ。紛れもない、俺の知っている薊美Aだ。
「そうかァ、まァ知らねェよな」
困惑する様子で俺の目を見る彼女の姿に、何故か微笑んでしまう。しかし、俺の頭の中には先程消えてしまったもう一人の彼女の言葉が離れなくて。
「…此処、何処だろうなァ」
「…」
「お前が元居た場所に、……帰さねェと」
何故だろう。目を合わす事が出来ない。何となく気まずくて、何となく後ろめたくて。
「…あ、の」
無口な彼女が、遂に口を開いた。
「…え、…と。大丈夫、…ですか」
「…え、」
「泣いて…ます、…貴方」
そう言いながら、スっと彼女は手を伸ばして俺の目元を触る。あァ、まだ濡れていたのか。この厄介な
「…ッ、悪ィ」
「いえ…泣く事は…、良い事、ですから」
何でそんな事言うんだよ、何でそんなに優しくするんだよ。もう嫌なんだよ。もうやめたい、もう何もかも無くしたい。
「な、ァ」
「……?は、い」
「もし…もし、俺がお前の大事なモノを奪ったら…どうする」
「…大事、な、モノ…」
言ってしまった後にハッと気付く。俺はなんて事を聞いてしまったんだ。慌てて弁解をしようと試みるも、彼女は今真剣考えている様子で。思わず何言えなくなってしまった。
「…ない」
「え…?」
「…私に、大事なモノは…ない」
「…何、言って」
「だから…分からない」
「…ッ、大事なモノ…が、無ェ?」
「私の…大事なモノは、もう…無くなってしまった。
──────私が…無くして、しまった」
やめろ
そんな目で下を向くな
やめろ
そんな
"そう、あの子が復讐したいのは…自分を手離した両親でも、自分に首輪を付けたあのクソ野郎でもない。
─────何も護れなかった自分なのよ"
「…やめろ、」
脳裏に響く声を必死に取り消す。こんな言葉が聞きたくて言ったんじゃない。
「…俺が、」
「俺が、…もし、護りたいって言ったら、」
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うぇすとり?ぁー(プロフ) - 大ファンです!完結おめでとうございます!伏線回収も回想シーンも最高でした!自分はアザミちゃんが好きです。 (2021年10月3日 23時) (レス) @page48 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
ライアミ - めっちゃ泣けたヨ!布団がめちゃくちゃ濡れてんだけど……………ヤバいネ。感動をありがとアル!泣くことや笑うことはストレス発散になるからネ!終わりヨ! (2021年3月28日 1時) (レス) id: 2c479952a6 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。光華さん、いつも自分の作品にコメントしてくださって、本当にありがとうございます!鬼滅作品を思う存分書いた後、すぐに銀魂復帰しますので、約束です! (2021年1月25日 0時) (レス) id: 611a77bbbd (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 完結おめでとうございます!次も鬼滅ですか!銀魂も鬼滅も好きなので!! 銀魂作品更新応援してます!何時までも待ってますんで、虚無感ゆっくり消化してください (2021年1月24日 18時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
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