完敗 ページ45
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目の前に落ちている少女を助けようと手を伸ばすが、その手は確実に掴んだと思ったのに、スルッと通り抜けた。
「!!」
俺は一瞬何が起こったか分からなかったが、どうやら少女に触る事が出来ないらしい。
「…クソッ!!」
俺の声は虚しくも消え去り、そのまま落下。地面に落ちる衝撃は全く無く、痛みも無ければ音もしない。俺は無傷だった。しかしあの少女は?あの歳で二階の屋根から落ちたら、相当な大怪我をした筈だ。俺は直ぐに起き上がり、少女の安否を確認しようと周りを見渡した。
「……は?」
目の前に見える光景が、信じられなかった。思わず、目を見開きながら腑抜けた声が出た。
「何だぁ?いきなり上から落ちて来やがって、この餓鬼」
鬼が居た。目の前に、鬼が立っていた。俺の存在には気付かず、落下した少女の片脚を掴んでいた。少女は身体の力を抜いたように宙にぶら下がっていた。そして真顔で鬼を見つめている。
─────殺せ。
その本能に従い、俺はすかさず構えをとりながら刀を抜こうとした。
「…え、」
刀を抜こうとしたんだ。でも抜く事が出来なかった。片時も肌身離さず持ち歩いて居た日輪刀が、俺の腰に差さっていなかったのだ。一瞬にして血の気が引いた。そんな事、ある筈がない。俺が日輪刀を持っていないなんて…ある訳がない。
俺は硬直した。目の前に居る鬼を殺せない。目の前に居る少女を助けてやれない。それに、よく良く考えれば俺は少女に触る事が出来ない。
気配で分かる。コイツは雑魚鬼だ。こんな奴、俺にかかれば瞬殺だ。呼吸を使わなくとも勝てる。だが今の俺は無力だ。つまり、何が言いたいのかと言うと
「…完敗だァ」
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「餓鬼が急に上から降ってきて驚いたが、女の餓鬼は美味いんだよなぁ」
ニタニタと汚い笑顔で少女を見つめる鬼。
全く怖くないのか、真顔でそれを見つめる少女。逃げろ、いいから逃げろ。暴れて全速力で逃げたら勝てるかもしれない。頼むから逃げてくれ。
俺の儚い希望は呆気なく散り、少女は全く逃げようとしなかった。鬼はそのまま口を大きく開けてぶら下がっている少女を頭から喰おうとしていた。
─────やめろ、やめろ
俺はその場に座り込んでそう願うしか無かった。刀さえあれば。いや、武器なんて無くてもいい。この鬼に触れさえすれば勝てるのに。少女を、救えるのに。
ツー、と一滴の涙が俺の目から零れた。
─────その時、だった。
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ほわ - はじめまして!読むの楽しいです!!もしかしてDECO*27さんの依存香炉の歌詞引用されてますか!?!? (2021年3月12日 10時) (レス) id: 67e3028028 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 芋けんぴさん» コメントありがとうございます。不死川さんのキャラ、書きやすそうで意外と書きにくい、掴みどころや考えてることが分からないような、、、そんな事をいつも考えながら書いてます笑作品を褒めて頂き嬉しい限りです!これからもこの作品をよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。確かに…共通点多いですよね、、、その姿にいつの間にか惚れてしまったのかもしれません…!もうすぐ続編へと移行しますので次の作品もよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - 初コメント失礼します。私も鬼滅だと不死川さん推しです。不死川さんのキャラを殺さず、丁寧に物語を紡いでいるところにとても惹かれました!今から続きを読ませていただきます!! (2021年1月18日 1時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - はわわわ 感激です! 鬼滅だったら不死川さんなのわかります!護る為に大切な人を突き放すところとか何か共通点があって土方さんと似てないけど似てるんですよね。(結局垢名前垢と同じ) 作品更新応援してます! (2021年1月17日 17時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
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