悪夢 ページ27
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「くそ、無駄な時間を過ごした」
そう言って男は舌打ちをしながら部屋を出ていった。俺は一体何が起きたんだと思いながら扉を見つめていた。殺されるかと思った。そう強く感じていた筈なのに恐怖がまるでなかった。
俺の腕からは血が溢れ出るように垂れていた。赤黒い、濁ったような血だった。ベッド周りを確認すると救急箱があった。俺は呼吸で止血をしようとしたが、何故か出来なかった。だから適当な布で止血し、包帯を巻いた。
殴られた腹を優しく撫でた。
殴られた頬を優しく触れた。
そして机の引き出しを漁って、手鏡を探した。多分、いや絶対。俺は今の状況に確信していた。俺は俺じゃない、俺はアイツになっている。引き出しの中から小さな手鏡を見つけた。そして、自分の顔を確認した。
「……お前はいつも、耐えてたんだなァ。…A、」
酷く小さな弱々しい声が自分の鼓膜に響いたのだった。
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「……ッ!!!」
俺はハッと目が覚めた。縁側でそのまま寝てしまったのか。いつの間にか朝日が昇っていた。
自分の手元で小さく丸まって眠っている彼女を見つけた。俺はしっかり彼女を抱きしめて眠っていたようだ。少し恥ずかしくなった。
「…あの夢は、本当なのか?」
俺は小さな声で呟いた。彼女に問いかけるように言ったが、眠っている彼女が聞いている筈も無く俺の質問は虚しく消え去った。
先程見た夢。奇妙な夢を見たのは二回目だった。一回目は、知らない鬼が俺に…いや、彼女の姿になった俺に窓越しから話しかけている夢。二回目は、またあの鬼が俺に話しかけ、そしてあの屋敷の主人らしき男に虐待される夢。
多分、どちらも現実だ。実際に彼女は経験してきたんだろう、あの悪夢の様な出来事を。
「………」
妙に引っかかる点が幾つかあった。けれどそれを考える程の脳が俺には持ち合わせていなかった。どれほど考えても今は抱きしめている彼女の体温が温かいという事ばかり考えてしまった。
「…A、A」
ポン、ポンと彼女の背中を優しく叩きながら俺は彼女の名前を呼んだ。
「……」
空を見ながら、遠くを見つめながら俺はずっと彼女の背中をあやす様にポンポン叩いた。大丈夫、大丈夫だから。そんな思いを込めながらさすった。
「……大丈夫だぞ、俺が…俺が護るから」
そう呟きながら、俺はずっと彼女の背中をさすっていたのだった。
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ほわ - はじめまして!読むの楽しいです!!もしかしてDECO*27さんの依存香炉の歌詞引用されてますか!?!? (2021年3月12日 10時) (レス) id: 67e3028028 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 芋けんぴさん» コメントありがとうございます。不死川さんのキャラ、書きやすそうで意外と書きにくい、掴みどころや考えてることが分からないような、、、そんな事をいつも考えながら書いてます笑作品を褒めて頂き嬉しい限りです!これからもこの作品をよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。確かに…共通点多いですよね、、、その姿にいつの間にか惚れてしまったのかもしれません…!もうすぐ続編へと移行しますので次の作品もよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - 初コメント失礼します。私も鬼滅だと不死川さん推しです。不死川さんのキャラを殺さず、丁寧に物語を紡いでいるところにとても惹かれました!今から続きを読ませていただきます!! (2021年1月18日 1時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - はわわわ 感激です! 鬼滅だったら不死川さんなのわかります!護る為に大切な人を突き放すところとか何か共通点があって土方さんと似てないけど似てるんですよね。(結局垢名前垢と同じ) 作品更新応援してます! (2021年1月17日 17時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
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