人質の育て方【不死川実弥】

言葉 ページ11

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「怪我も完治しましたね、顔の傷が残らなくて良かった」

　彼女が蝶屋敷に入院して数週間が経とうとしていた。胡蝶は彼女の頬を優しく触り体調を確認する。彼女も胡蝶の存在に慣れたのか、されるがままに胡蝶の眼を見つめていた。

「もう時期に退院出来ますよ。その前に、Aさんにはたくさん聞きたい事があります」
「…」

　彼女は黙って胡蝶を見つめていた。慣れたとは言ってもこの数週間、彼女の口は開く事はなかった。

「お館様の元へ、行ってくれますか？」
「…」

　彼女は黙ったままだった。数週間前、同じ言葉を不死川実弥から聞いた"お館様"と言う人物。誰か分からない人物に会うなんて正直了承をしたくはない。
　が、しかし。約束をした。その時不死川実弥とお館様と会う約束を確かに彼女はした。だから会わなくてはならない、彼と約束をしたのだから。彼女は静かに首を縦に振った。すると胡蝶はフワッと笑って、「では支度をしましょうか」と言った。急な出来事に彼女は一瞬動揺したが、すぐにいつもの表情に戻りコクリと頷いた。


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　入院着から私服に着替えるのはいつぶりであったか。彼女は胡蝶から渡された、彼女が最初着ていた真っ黒な男物の着物と袴に袖を通した。

「女性物の着ていない着物がありますが、そちらにしますか？」

　そう胡蝶は聞いたが彼女は拒否した。赤黒い血液で染まっていたこの着物も綺麗な黒色に変わっていた。太陽の良い匂いがする。

「髪を結いましょう。Aさんは綺麗な黒髪ですね」

　そう言いながら胡蝶は彼女の長い黒髪に櫛を通した。櫛で綺麗にとかした黒髪は艶々としていて、正直結わなくても十分なくらい綺麗であった。それでも邪魔くさそうにする彼女の為に高い位置で三つ編みをし、それをくるっと纏め上げお団子にする。胡蝶しのぶは器用であった。

「出来ましたよ、とても似合っています」

　そう笑いかけ手鏡を見せた。彼女はチラッと自身の姿を見たが興味がなさそうに視線を逸らした。

「そういえば薊の花の簪があったんです、今持ってきますね」

　そう言って胡蝶は一旦部屋を出た。そんな物つける必要ないのに、と言っているような目つきで彼女は胡蝶の背中を見ていた。胡蝶に渡された手鏡を見つめた。薊色、と言っても赤みが強いこの瞳の色は好きになれなかった。


　赤い薊の花言葉は────────。


「…………復讐」


　彼女は消え入りそうな声で静かに呟いたのだった。


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