36 ページ36
·
一時間の昼休憩になった。私はA組の人達との顔合わせを全力で避けたかったので観客席から離れ人気のない所を探しに歩きに出た。しかしこの行動が凶と出てしまう事となる。階段を降りた瞬間、まさかのその下に居たのはA組の人達だったのだ。相澤先生と同じように私を待ち伏せしていたらしい。このまま走って逃亡しようかと考えたが無闇矢鱈に逃げても結局捕まる未来しか見えなかったので大人しく皆の元に歩み寄った。
「志村、棄権したって本当なのかよ！？」
初めに口を開いたのは上鳴だった。私は「ああ、そうだよ」と答えると麗日が「何で！？」と理由を問いただす。私は頬をガリガリと掻き、「体調不良だ」とだけ告げてそのままA組の奴らを突っ切った。しかし誰かに右腕を掴まれる。一瞬爆豪かと疑ったがどうにもその手つきは彼よりも優しい。振り返ってみると私の腕を掴んでいたのは切島だった。彼の表情はいつもと違うような、少しばかり曇った顔。私は冷たく「まだ、何か」と言った。
「何か…隠してねえか？」
「いや何も」
「でもよ、轟の氷を一気に破壊したんだろ？なのに体調不良で棄権って…」
「切島」
私は彼の言葉を遮るように名前を呼んだ。切島はハッとした表情に戻り、私の目を見つめている。その目は本気で私を心配しているような、本気で踏み込もうとしているような。見えない境界線を引いている事に、きっと彼は気付いている。気付いた上でその線を越えようとしている。だから私は遮る。止める。拒む。
「体調が悪いんだ。離してくれないか」
そう告げると切島は静かに手を離した。最後まで彼の手は優しかった。荒々しい素振りを一切見せず、私のついた見え見えの嘘を問いただす事もせず。悔しそうな表情で「…救護室まで送るぜ」と言った。彼は底なしのお人好しだ。彼が持つ人柄の良さと屈託のない笑みは時に私の心を絞るように抉られてしまう。とても気分が悪かった。
「いや、一人で行く。先に食堂に行っててくれ」
「……分かった」
案外素直に引き下がった切島は私に背を向けて食堂に向かって行った。彼にはまだ午後の競技が残っている。心の中で激励の言葉を呟いて私は目的もなしに歩き始めた。
歩き始めて暫く経った頃だ。たまたま歩いていた場所の先に話し声が聞こえた。あまり内容もロクに聞かずそのまま通り過ぎようとしたがその声の主が分かったと同時に私の足はピタリと止まった。
「個性婚って、知ってるよな」
声の主は、轟焦凍だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 742人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
麗葉 - とても面白かったです！空白があると読みやすいかなと思います！ (6月19日 14時) (
レス) id: 14fd5e9416 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - レオさん» コメントありがとうございます。夢主の過去は後に出てきますので暫くお待ち頂けると幸いです。これからもこの作品をよろしくお願いいたします。 (2021年12月14日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - eggちゃんさん» コメントありがとうございます。更新頻度をあげられるよう全力を尽くしますのでこれからもこの作品をよろしくお願いいたします。 (2021年12月14日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - のむさん» コメントありがとうございます。ファンになって頂けるなんて光栄です。これからもこの作品をよろしくお願いいたします。 (2021年12月14日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 猫さん» コメントありがとうございます。これからもこの作品をよろしくお願いいたします。 (2021年12月14日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
