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死柄木の動きが止まった。余りの速さに何が起きたのかさえ把握出来ない。分かるのは目の前で頭を握り潰されているイレイザーと、踏み潰されている自分の背中。しかし最期の足掻きとして出されていたのは、かっ開いた先生の眼球。
「本っ当、かっこいいぜ」
イレイザーが気力を振り絞って個性を出した。私はただそれを見つめていた。粉々に砕けた右腕と、多分肋も何本か死んだ。もはや痛みはなかった。それよりも何故先生はああまでして生徒を護ろうとするのか今の私には不思議で仕方なかった。分からない。敵を倒せたらそれで良いんじゃないのか。分からない。私にはまだ正解が分からない。
背中の重みが消えた。いつの間にか脳無は緑谷達の方に移動していた。ああ、死ぬ。個性もまだ上手く扱えていない緑谷に、ビビり散らかして白目を向いている峰田に、口を半開きにして呆然とする蛙吹。勝ち目などある訳がない。ここで全滅だ。壊滅だ。
─────私は敵が嫌いだ。大っ嫌いだ。
嫌いなんて言葉で済ませられるモンじゃない。殺意が沸くくらい憎い。おぞましい。忌まわしい。何かを護る為にヒーローを目指しているんじゃない。誰かを救う為にヒーローになりたいんじゃない。
私は私を可愛がるためにヒーローを志したんだ。
他人の為じゃなく、自分の為に。他人の事なんて考えず、自分の事だけを考えて。そんな奴がヒーローを目指したらどうなる？ヒーローを志したら……どうなる？
「─────もう大丈夫。私が来た」
どんなに過酷な状況に陥っても、どんなに絶望的な状態になっても、きっとヒーローはやって来る。そう、みんなは信じているのだから。
「オールマイトー！！」
視界が眩む。オールマイトにいつもの笑顔はなく、怒りに満ち溢れた表情でいつもの台詞を言っていた。「私が来た」なんて。嘘ばかりだ。来ない。アンタは来ない。一番来て欲しいと願った時には絶対に来ない。救ってくれない。助けてくれない。ヒーローなんて、敵なんて、どれも同じだ。
「あー…コンティニューだ」
激しい頭痛に襲われる中、私の脳に直接殴り掛かるような掠れ声で死柄木はそう呟いていた。オールマイトが一瞬にして周りの敵を倒して行く。意識がないイレイザーの元に急いで駆けつけ、緑谷達を入口の方へ避難する様に指示をしていた。私はまだ帰る訳にはいかない。ここで素直に避難したら私が此処に居る意味がなくなってしまうから。まだアイツとの話が終わっていない。
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