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空はまだ白々しさが残っていて、静けさと共に今日という一日がまた始まるんだという、気怠い期待も一緒に添えられていた。
少しだけ、まだ少しだけ寝ぼけ眼の実弥の手を引くAは、そんな実弥に小言を言うも当の本人の耳には届いていない。
今年のトレンドであるホワイトのボアのアウターと、ベージュを基調としたチェックがあしらわれたパンツに身を包んだ二人は、指と指を絡めながら足を運ぶ。
─────今日は二人が付き合って一年の日だった。
二人は今日、漣が美しい海の隣にある屋外型の大型遊園地にやって来た。
この日を心待ちにしていたAは、SNSを逐一チェックし、実弥とするコーデに頭を悩ませていたが、その間、Aは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
開園時間となり、和気藹々とした声やテーマパーク特有の食べ歩きスイーツの甘い香り、エリアをイメージした音楽が奏でられる中、二人は、というよりAは御目当てのカチューシャを見つけた。
それは、この遊園地のメインキャラクターの一つである、テディベアーをモチーフにしたカチューシャだった。
ふわふわな毛並みの耳がついているもので、このキャラクターをイメージしたコーデを、今日、二人は着こなしているのだ。
「実弥、これつけよう」
「……マジ?」
「何、嫌なの?」
「……そういうわけじゃねェけど」
「じゃあ何?付けたくないの?」
「……はァ、わーったわーったァ」
Aよりも背が高い実弥を見つめるAは、図らずとも上目遣いとなってしまうが、実弥はこれが大の苦手であった。
そんな目で見られれば、好きで堪らない彼女からのお望みとならば、実弥は何でも出来てしまう程、Aのことを愛おしく思っていた。
やった、とにんまりと頬を緩めながら、鏡で自身の頭に付けるAを横目に、柄にも無く口元を緩めた実弥は、Aが持つカチューシャを手にして、レジへと向かった。
お揃いのカチューシャを付け、あっという間に過ぎる時間を惜しみながら、最後、二人で乗った観覧車の一室。
また来よう、といつかの約束を二人はキスで交わした。
混じり合う目と目。互いの瞳に互いの顔を映し、照れ合う様に笑い合う二人の間に、流れ込む温かな空気は、かけがえの無い二人の時間をゆっくりと進めるようだった。
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km10230803(プロフ) - 初めまして!一気読みさせて頂きました!答えが分からなくて...よろしければ空いている時間などに答えを教えていただきたいです!とっても素敵なお話でした! (6月29日 22時) (レス) id: d1c3fcb5a1 (このIDを非表示/違反報告)
うぇすとり?ぁー(プロフ) - 辛くて切ない作品でしたがとても素敵な小説でした😭 (2021年9月30日 22時) (レス) @page1 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
すみっことかげ(プロフ) - 一気読みさせていただきましたが、鳥肌がぁぁアァア・・・・・。辛くて心臓痛いです(;_;)でも素敵なお話でした。ありがとうございます。 (2021年7月4日 23時) (レス) id: 8ba328b5fb (このIDを非表示/違反報告)
そういんく(プロフ) - 答え…全く分かりません!メッセで送ってくださると嬉しいです!お願いします!この話、最後は少し悲しいですけど、とても感動しました! (2021年6月21日 22時) (レス) id: 26dc2f827c (このIDを非表示/違反報告)
澪凪(プロフ) - 答え…なんだろう…??メッセで教えてくださいっ!!とってもきれいなお話でした! (2021年6月20日 14時) (レス) id: 94e3b43bb4 (このIDを非表示/違反報告)
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