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「綺麗…!」
車窓から流れる潮風がAの髪を靡かせる。頬を染め、少し興奮した様子のAを横目に、口角を上げてハンドルを切る実弥。
車内に響く音楽は、壮大さと儚くも熱い歌詞で綴ったラブソングだ。Aが好きでよく聞くこの曲は、いつの間にか二人で聞くことが増えた。
車を走らせる事、およそ二時間弱。二人は潮風が自由に舞う海に到着した。
寄せては返す恥ずかしがり屋の波が、手を繋ぐ二人を控えめに歓迎していた。
実弥はホワイトの開襟シャツとデニム、それから襟元にアクセントとしてサングラスをかけていた。
一方でAはトレンドであるシアータイプのシャツをアクアブルーのタンクトップの上から羽織り、サテン生地のプリーツパンツを穿いていた。
「冷たい」
「濡れんなよォ」
プリーツパンツを捲り上げ、足首まで海に浸かるAは、少し前の御転婆な一面がチラチラと顔を出していた。
社会人となった二人は、忙しない日々を各々が送っていた。
以前から興味のあった広告代理店へと就職したAと、夢であった教職に就いた実弥。
学生から社会人と大きく環境が変わった二人は、勿論、今までのように頻繁に会うことや連絡を取り合うなんてことは出来なかった。
繁忙を極め、慣れない環境から来る不安感、孤立感、疎遠といった負の感情に煽られ、ひさしぶりの通話で喧嘩することが、眠れぬ夜が多々あった。
けれど二人はそれを乗り越え、三年の記念日、二人にとっての伏し目の日に、束の間のひと時を過ごしている。
キャッキャッと頬を綻ばせながら、実弥と呼ぶAを見て自然と笑みを浮かべる実弥は、Aの腕を引く。
実弥の胸の中にすっぽりと埋まったAに、実弥は静かに唇を寄せた。
唇を離して、見つめ合う二人は途方も無い程に胸が熱くなった。そしてもう一度唇を重ねた。
「実弥、ありがとう」
「ん」
これから先、二人は何度も何度も歪み合い、見えない壁に苦しむのことになるだろう。理解し合えないことや、許し合えないことが幾つも出てくる。
その度に二人は苦しみ、もがきながら、何度も何度も手を繋いで歩み寄る。
二人だから出来ること、二人にしか出来ないこと、二人だけの形で毎日を重ねていく。
寄せては返す波のように、世界でたった一つの形で二人は進む。
二人なら、Aと実弥ならこの先も何があっても進んでいける、そんな二人だ。
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km10230803(プロフ) - 初めまして!一気読みさせて頂きました!答えが分からなくて...よろしければ空いている時間などに答えを教えていただきたいです!とっても素敵なお話でした! (6月29日 22時) (レス) id: d1c3fcb5a1 (このIDを非表示/違反報告)
うぇすとり?ぁー(プロフ) - 辛くて切ない作品でしたがとても素敵な小説でした😭 (2021年9月30日 22時) (レス) @page1 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
すみっことかげ(プロフ) - 一気読みさせていただきましたが、鳥肌がぁぁアァア・・・・・。辛くて心臓痛いです(;_;)でも素敵なお話でした。ありがとうございます。 (2021年7月4日 23時) (レス) id: 8ba328b5fb (このIDを非表示/違反報告)
そういんく(プロフ) - 答え…全く分かりません!メッセで送ってくださると嬉しいです!お願いします!この話、最後は少し悲しいですけど、とても感動しました! (2021年6月21日 22時) (レス) id: 26dc2f827c (このIDを非表示/違反報告)
澪凪(プロフ) - 答え…なんだろう…??メッセで教えてくださいっ!!とってもきれいなお話でした! (2021年6月20日 14時) (レス) id: 94e3b43bb4 (このIDを非表示/違反報告)
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