大学 ページ30
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「ベクトルと数列が苦手なんだよね」
同じ机で向き合う形になりながら俺と彼女はそれぞれの勉強をする。そんな中、彼女が口を開いてそう言った。
「数B苦手なのかァ?」
「Bに限らず数学が苦手だけど、その中でも嫌いな分野だな」
「ふーん、楽しいけどなァ」
「いい気分になるのはもう懲り懲りだよ」
「何の話だよ」
俺は英文法の参考書を見ながら四択問題を永遠に解いていた。正直な話、英語…特にイディオムは嫌いだ。根っからの理系な俺は暗記系が苦手なのかもしれない。数学や物理の公式とかは自然に頭に入るのに英単語や文法、イディオムとなると話は別だ。
「さねみんは志望校決まったのかい」
「あー…近場で偏差値高いとこかな」
「××大学とか?」
「まァ、…行けたら」
Aが出した大学名はここら辺では一番偏差値の高い有名大学だった。正直教師を目指すならココ!ってよく聞くくらい教育学部が充実していて、模試の判定は今んとこ"C"。この夏の頑張りが次の模試に反映したらもしかすると"B"が貰えるか貰えないかレベル。
夏休み前の三者面談では担任の悲鳴嶼先生に"頑張る余地は大いにある"と言われたからとりあえず第1志望にしている。
「さねみんなら行けるよ」
「どうだかなァ」
「3年間お世話された私が言うんだから間違いないよ」
シャーペンを動かしながら彼女は"ふふふ"と笑う。あァ、何でこんなにも愛おしいなって感じてしまうのか。この気持ちに名前があるなら教えて欲しい。
「…Aは決めてんのかよ」
「全然」
「だろうなァ」
コイツが自らの意思で"ここに行きたい!"なんて言ってる姿なんざ想像出来ねェよ、なんて思いながらフッと笑う。
「でもさねみんと離れるのもちょっとな〜」
「寂しいってかァ?」
「お世話されない日常なんて」
「お世辞でも寂しいって理由が欲しかったわ」
「冗談だよ」
"馬鹿野郎"と言って彼女の額に強めのデコピンをかました。俺をおちょくった罰だ、なんて。
コイツとこうやって居られるのも残り約半年。その実感が今更ながら湧いてきて焦れったい気持ちでいっぱいになる。
「───────……同じ大学、目指さねェ?」
お互いシャーペンのカリカリ音しか響かない部屋の中、俺の声が静かに響いた。賭け事、と言ったら聞こえが悪いのかもしれない。しかしこれは紛れもない本心であった。
コイツとまだ隣で笑っていたいから。そんな我儘を通す為に、幼い俺が精一杯考えた方法がコレだった。
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うぇすとり?ぁー(プロフ) - 前編読み終わりました!いくまさんのギャグセンス最高でした!へいたくしーが前編の最後のシーンでは言えなくなってしまう甘酸っぱい展開最高でしたっ! (2021年10月13日 22時) (レス) @page50 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
最高 - これはッ!!!絶対にもッッッッと伸びるべきです(迫真)本当に面白いです可愛いです最高です (2021年3月18日 16時) (レス) id: f0ef8aefa1 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - ルナさん» コメントありがとうございます。最初、田中くんの漫画を読んでこんなヒロインを書きたいなと思い執筆させて頂きました。お気付きになられたとは笑これからの展開はオリジナルが多いのでお時間あれば続編も是非ご覧になって下さいね! (2021年2月27日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - yuenさん» コメントありがとうございます。作品を好きと言って下さり嬉しい限りです……!続編もよろしくお願いいたします! (2021年2月27日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ - 田中くんはいつもけだるげだ!! (2021年2月27日 14時) (レス) id: 72ff3a10a5 (このIDを非表示/違反報告)
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