一生 ページ16
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──と言うかこれカップル向けじゃねェか。
ふと、そんな事が脳裏によぎってしまった。寝そべって見れるシートでふかふかのクッション付き。しかも思っていた以上に相手、つまりAとの距離がかなり近い。
「……ッ」
おいおい、何緊張してんだよ俺は。確かに距離は近いし寝そべって見なきゃならねェから尚更意識するのは仕方ねェけど別に緊張なんざしなくたって。
映画の予告が始まり、チラッと隣で寝そべるAを見た。
「…念願のプレミアムシートはどうだァ」
長ったらしい予告が流れる中、相手に聞こえる程度の小声で俺は彼女に話しかけた。
「……」
「……オイ、A?」
返事がないただの屍のようだ
「……まさか、」
コイツもう寝やがった
俺の緊張を返せと思いながら俺は彼女の額に思いっきりデコピンをかましてやったのだった。
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「いや〜、とても良かったねぇ」
「最初から最後まで寝てた奴が言う感想じゃねェ」
「いや〜、寝心地とても良かったねぇ」
「帰れ」
映画が終わり俺とAは近くのカフェで座っていた。普通なら此処で映画の感想とか言い合うのだがコイツの目的はプレミアムシートで昼寝をするという何とも金の無駄遣いな事。
だがそれが神崎Aという人物であるから否めないのだ。むしろ積極的に外に出るAなんてAじゃない。
「まァ泣きはしなかったが良い話だったよ」
「女の子目覚めたしね」
「見てたのかァ?」
「夢に出てきた」
「どういう脳してんだよ」
映画の内容は幼馴染の高校生カップルの彼女の方が交通事故で意識不明のまま眠り続け年月が過ぎ、彼氏がその間支え続けて見事ハッピーエンドという結末。まァ感動したっちゃ感動した。
「さねみんは、もし私が眠り続けたらどうする?」
「…はァ?」
突然何を言い出すかと思えば彼女はホットコーヒーを飲みながらそう呟いた。
「もしもだよ」
「もしもじゃなくてもテメェはいつも眠り続けてるだろうがァ」
「たーしかーに」
ヘラッと笑うAを見つめながら俺はホットココアを飲み干す。
「でもまァ、」
「?」
彼女のサラサラな長い髪を触りながら俺は口を開いた。
「お前がどれだけ眠り続けても目覚めなくても、この世界でお前の世話出来る男は俺くらいしかいねェから…。
──────多分、一生待ってんだろうなァ」
なんて、柄にも無い事言ってみたのだった。
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うぇすとり?ぁー(プロフ) - 前編読み終わりました!いくまさんのギャグセンス最高でした!へいたくしーが前編の最後のシーンでは言えなくなってしまう甘酸っぱい展開最高でしたっ! (2021年10月13日 22時) (レス) @page50 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
最高 - これはッ!!!絶対にもッッッッと伸びるべきです(迫真)本当に面白いです可愛いです最高です (2021年3月18日 16時) (レス) id: f0ef8aefa1 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - ルナさん» コメントありがとうございます。最初、田中くんの漫画を読んでこんなヒロインを書きたいなと思い執筆させて頂きました。お気付きになられたとは笑これからの展開はオリジナルが多いのでお時間あれば続編も是非ご覧になって下さいね! (2021年2月27日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - yuenさん» コメントありがとうございます。作品を好きと言って下さり嬉しい限りです……!続編もよろしくお願いいたします! (2021年2月27日 23時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ - 田中くんはいつもけだるげだ!! (2021年2月27日 14時) (レス) id: 72ff3a10a5 (このIDを非表示/違反報告)
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