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「子供が、いるんですって。それから奥さんも」
幼少の記憶がフラッシュバックしていた。
散々喘いだ母親の声は少し掠れていて、外は雨続きで湿気が高く、おんぼろな家の中は少しカビ臭かった。
この日の母はいつもよりどこか塩らしく、身なりを除けば街を歩いている普通の女に見えた。
母が言った彼というのは何番目かの相手で、他の男と同じように家に入り浸っている事が多かった。
男が帰ったばかりの部屋には彼らが残した男と女の匂いが流れている。
母の、所謂そういう話を聞くのは初めてで慣れた手つきで煙草の灰を落とす彼女に、私は確かに見とれていた。
全裸と間違われるような薄い肌着を見にまとい窓際で煙草を吹かすその人は、ただの可哀想な女だった。
母は私の父親に当たる人に捨てられた可哀想な人だ。二人の間には確かな愛があったにも関わらず、私を身篭った母を簡単に切り捨てるような、そんな父親たまったらしい。
母は美しい人だ。流れる髪も月明かりに照らされている横顔も。
母は伏し目がちな瞳で私をまっすぐ見た。その後は決まっていつも頬を撫でてくれる。
「あんたは私の子供だからね、幸せになんてなれないよ。なっちゃいけないよ」
「あんたは私の子供だからね、私と同じ道を歩むに決まってるよ。あんたに幸せな未来は築けないよ」
それが当たり前だとでも言うように毎日、毎日、毎日、身体の匂いが残る部屋でそう囁くのだ。
「本当、薄気味悪いわ」
父親にそっくりよ、と母はまた煙を吐いた。
嫌悪の瞳で私を見たかと思えば、急に優しくほほえんだ。ニンマリと口角を上げ優しく私を抱き寄せる。
煙草の灰が床に落ちた。
「私の可愛いA.......。いい事を教えてあげる」
安っぽい香水の匂いと男の体臭、煙草の煙が混ざり合い頭が痛くなる。
「彼の家庭が.....人生が壊れてしまえば、新しいパパが手に入るわ。会いたいでしょう？ 優しいパパに」
恋は盲目だと誰かが言った。
好きだ好きだとむき出しになっているその愛に身を焼き尽くされているのだ。
雪のように儚く溶けることの無い「愛」が、自らに与えられることの無かった「愛」がたまらなく欲しくて、愛おしくて寂しくて。
だから彼女は、私の母親は.......目の前のただの弱い女は、美しく妖艶に微笑むのだ。
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イキテル(プロフ) - 猫夜桜((シラキさん» とても嬉しいコメントありがとうございます。閲覧感謝です！ (2020年4月2日 1時) (
レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
猫夜桜((シラキ - 何も言えない、言いたいんだけど語彙力が無さすぎて、あと文才ありまくりプロの方ですか← (2020年4月2日 0時) (レス) id: 27d48dc6f8 (このIDを非表示/違反報告)
イキテル(プロフ) - ハルさん» コメントありがとうございました、今後の励みになります。感謝です！ (2020年3月25日 0時) (レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 読み易い！文が綺麗！ (2020年3月24日 15時) (レス) id: 121cd7f10a (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - ご返答ありがとうございます、了解しました！貴方様の作るお話が大好きなのでこれからも頑張ってください！応援してます！ (2020年1月30日 10時) (レス) id: 48f80f9c86 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：イキテル | 作成日時：2019年12月26日 2時
