83 ページ33
「どうしてそんな事を言ったのよ、可哀想だわ」
カルテにペンを走らせながら眉をひそめてダイアー先生はそう言った。
「どうしても何も恋仲ではありませんし」
事実を言ったまでだ、と言うと彼女は「あらそう」と呟いた。もう何も言うことは無いとでも言うように。
「クラークさんが傷付くような事を言ってしまったのでしょうか」
「....さあ」
「先生、呆れてますか？」
「貴方たちには呆れ疲れたわよ」
「愛してるって言ったのに」。つい先刻、紛れもないクラークさんの声でそう聞こえたのだ。幻聴か、はたまた妄想かそれとも事実なのか。
「でも言われた覚えがないんです、愛してるだなんて」
クラークさんの思い違いなのか、それともからかっているつもりだったのか。色んな考えが思考回路を巡り頭が回りそうだ。
窓ぎわの間仕切りカーテンが勢い良く開かれたのはその時だ。
「私聞いたわ、この耳で」
何時からそこにいたのか、誇らしげにそう言ったのはナイエルさんだった。
ふんと鼻息を荒く吐きベッドから飛び降りると、椅子を引きずってダイアー先生の隣に腰を下ろした。
「ここは仮眠室じゃないのよウィラ、診察中だから出て行ってもらうとか助かるわ」
「釣れない事言うのね、「ダイアー先生」」
ナイエルさんに頬をつつかれるとダイアー先生は態とらしく顔を歪めてその手を払う。
「聞いたってどういう意味ですか、ナイエルさん」
「勘違いしないで、盗み聞きする趣味なんて無いのよ！ ただ...彼が口を開くのが早すぎただけ」
クラークさんより一足先に香酢瓶を私の部屋に届けたナイエルさんは、彼が来てから部屋を後にした。その直後、扉の外で彼女は確かに聞いたのだ。
「きっと眠っている時に言ったのね、「愛してる」って」
恐らく、クラークさんが口を開いた矢先に私が目を覚ましでもしたのだろう。つくづく空気の読めない頭だ。だとすればその言葉を私が聞いたと勘違いしていてもおかしくはない。
「本当に幸せになれるとでも思っているのか？」と何度も聞いた悪魔の囁きが再び脳内に響く。これは幻聴だ、解っていた。
幸せになってもいいだなんて誰が決めたんだ、ましてや私に幸せになれる権利などあるのだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 157人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イキテル(プロフ) - 猫夜桜((シラキさん» とても嬉しいコメントありがとうございます。閲覧感謝です！ (2020年4月2日 1時) (
レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
猫夜桜((シラキ - 何も言えない、言いたいんだけど語彙力が無さすぎて、あと文才ありまくりプロの方ですか← (2020年4月2日 0時) (レス) id: 27d48dc6f8 (このIDを非表示/違反報告)
イキテル(プロフ) - ハルさん» コメントありがとうございました、今後の励みになります。感謝です！ (2020年3月25日 0時) (レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 読み易い！文が綺麗！ (2020年3月24日 15時) (レス) id: 121cd7f10a (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - ご返答ありがとうございます、了解しました！貴方様の作るお話が大好きなのでこれからも頑張ってください！応援してます！ (2020年1月30日 10時) (レス) id: 48f80f9c86 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イキテル | 作成日時：2019年12月26日 2時
